相続人の不存在             


  相続財産法人の成立  

「相続人全員が相続放棄」をし、相続人が不存在となった場合、又は相続人の存在することが明らかでない場合、民法は相続財産を法人とする旨を定めている。(民法951条)  これが「相続財産法人」である。

・法人となった相続財産もひとたび相続人が現われれば、法人は存在しなかったものとみなされるが、
「相続財産管理人の行為は有効」とされる。


  相続財産管理人の選任 民法952条  

・相続人不存在の場合、相続財産は被相続人の死亡時に当然に法人となるが、この法人を代表し、また後日現れるかもしれない相続人や包括受遺者の法定代理人となるのが、
「相続財産管理人」である。

・2019年の民法改正により
「相続財産清算人」に改められた。参照ペ−ジ

 1.相続財産管理人選任の公告


・家庭裁判所は、利害関係人(債権者や自治体)または検察官の請求によって、「相続財産管理人を選任」(通常は、「弁護士」が選任される。)し、遅滞なくその旨を「公告」(期間は2ヶ月)しなければならない。

・この公告期間内に相続人が明らかになれば財産は相続人に引き渡され、管理人としての役割は終了します
(民法955条)。


 2.債権者および受遺者の請求申出の催告


・上記の2ヶ月の公告期間内に相続人が現れなかった時は、相続財産管理人は遅滞なくすべての「相続債権者及び受遺者」に対して、2ヶ月以上の期間を定めて「請求の申出」をなすべき旨を公告します。

・これは、
「遺産の清算の開始」を意味します。 従って申出をなした債権者等は、財産管理人からその弁済を受けることになります。


 3.相続人捜索の公告(民法958条)


・上記の債権申出の公告期間終了後も相続人が現れなかった時は、家庭裁判所は相続財産管理人又は検察官の請求により、相続人があるならば一定期間内(6ヶ月以上)にその権利を主張をすべき旨の公告を出します。

・ 尚、この公告と併行して、相続財産管理人は申出のあった債権者や受遺者への弁済等を優先させ、相続財産の中から債務の弁済等をします。

(2)これらの公告等と併行して相続財産の清算が行われ、相続人捜索の公告期間中に相続人が現れなかった時には
「相続人が不存在である事が確定」します。

(3)その後に残余の相続財産があれば請求の申立のあった
「特別縁故者に財産分与の審判」がなされる事になります。(民法958条の3)

・この場合に注意が必要なのは、あくまでも請求の申立をしない限り特別縁故者への財産分与はなされないという事と、この
「請求は相続人捜索の公告期間の満了後3ヶ月以内」にしなければならない事です。


4.相続人の不存在が確定


・不存在が確定後3カ月以内

@特別縁故者の相続財産分与の請求

A特別縁故者へ遺産の引き渡し

B特別縁故者がいない場合には、残余財産は国庫へ帰属



平成元年11月24日 最高裁判決

・共有者の1人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続きが終了したときは、その共有持分は、他の相続財産と共に、法958の3の規定に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり、右財産分与がされず、当該共有持分が承継すべき者のないまま相続財産として残存することが確定したときに初めて、法255条により他の共有者に帰属することとなる。
・「特別縁故者」と「共有者」が存在する場合、「特別縁故者が優先する」とした判例である。何故なら、特別縁故者に財産を与えるか否かの判断は、「家庭裁判所」に与えられているからである。


  国庫への帰属 959条  

・残余相続財産の最終帰属者を国庫とすること。

※最終の
「相続人捜索公告」の期間満了後3ヶ月以内は、「特別縁故者による相続財産分与の申立て」が認められるが、この申立てがなくあるいは分与がなされてもなお残余財産がある場合には、相続財産は国庫に帰属し、相続財産法人は消滅する。



  特別縁故者への分与 958条の3

「内縁の妻」「事実上の養子」のように、法律上は相続人ではないが、実際上被相続人と深い縁故を持っていた者。

※最終の相続人捜索公告の期間が満了して、
「相続人の不存在が確定した後、3ヶ月以内」は、被相続人の特別縁故者による「相続財産分与の申立て」が認められる。



・民法は「被相続人と生計を同じくしていた者」、「被相続人の療養看護に努めた者」、「その他被相続人と特別の縁故があった者」を「特別縁故者」として例示している。


区   分 民 法 相続税法 内    容
特別縁故者 第958条の3 第4条第1項
・被相続人と生計を一にしていた者

・被相続人の療養看護に努めた者

・被相続人と特別の縁故があった者

特別寄与者 第1050条 第4条第2項
・被相続人に対し無償で療養看護その他の労務の提供により、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした被相続人の
「親族」

「2018年の民法改正」で創設された。



  特別縁故者の相続税

相続税法4条

・民法958条の3第1項の規定により、特別縁故者が財産の分与を受けたときは、
「遺贈により取得したものとみなされ」て、相続税がかかる。

財産の評価  
財産分与を受けた時点で評価

相続税の計算  
相続開始(死亡)の日における税法に基づく


・財産の評価は、「財産分与を受けた時点」での評価で、相続税の計算は被相続人の「死亡の時点」なのでずれが生じる為、注意が必要である。

申告・納税  
財産分与があったことを知った日の翌日から10ケ月以内


不動産売却における注意点

・当該特別縁故者は、「相続財産法人から取得」したこととなる。相続により取得した訳ではないので、相続人の取得価額を引き継ぐ訳ではなく、「取得した時の時価で取得」したこととなるため、当該土地等を将来売却した場合の譲渡所得の計算において注意が必要である。