民法における借地権と歴史的な流れ



  民法における土地の賃借関係の制定



・明治29年に民法が制定され、当該民法において、土地の貸借関係の制定について
@地上権(物件)契約とA賃借権(債権)契約の二元主義を設けることとした。

・そもそも
「借地権」とは、「地上権」と「賃借権」をひとまとめにして呼んでいるだけであり、「借地権」という法律上の権利が存在する訳ではない。



地上権(物権)契約の場合

・物権とは、目的物を直接的に支配して、当該目的物を使用・収益・処分することができる排他的な権利をいい、民法においては、
「占有権」「所有権」「地上権」「永小作権」「地役権」「留置権」「先取特権」「質権」「抵当権」の9つを限定列挙している。。

・地上権とは、工作物又は竹林を所有するため、他人の土地を使用することができる権利をいう。工作物には建物が含まれ、竹林とは、竹の子を栽培する目的で、山林を借りることを想定している。

地上権の法的特長
項  目 内        容
存続期間
・原則として、当事者間の契約により自由である。

・契約により期間の定めがない場合には、当事者の請求により20年以上50年以下の範囲内で裁判所が制定する。

第3者対抗要件
・地上権者は、地主の承諾がなくても地上権を登記
(不動産登記簿謄本の乙区の登記事項)することが可能であり、当該登記をすることにより第3者に対抗することが可能となる。
地上権の処分
・地上権者は、地主の許可がなくても、地上権を処分
(譲渡・転貸等)することが可能となる。




賃借権(債権)契約の場合

・債権とは、債権者が債務者に対して一定の行為を請求することを内容とする権利で、排他性を有しないものをいう。

・賃借権とは、賃料を支払うことにより(有償契約)により、目的物を使用収益することができる権利を言う。

賃借権の法的特長
項  目 内        容
存続期間
・原則として、存続期間は20年以下と法定されており、この期間より長期の契約は、期間20年の契約に短縮される。

・法定期間経過時において、20年以内の期間をもって更新することが可能である。

第3者対抗要件
・賃借権者は、地主の承諾を得た場合にのみ賃借権を登記することが可能であり、当該登記をすることにより、第3者に対抗することが可能となる。

賃借権の処分
・賃借権者は、地主の許可がなければ、賃借権を処分
(譲渡・転貸等)することが不可能である。


・実際には、大部分の借地契約が「賃貸借契約」で締結され、地主は
「賃借権の登記」には協力的ではなかったので、借地人が有する賃借権を第3者に対抗させることができなかった。

・地主が、当該土地を第3者に売却した場合には、借地人は対抗力がないため、追い出されないためにも新地主にそれなりの
「一時金」を支払うのが慣例となっていた。地主が替わる事によって借地人の地位が揺れるので、このような土地売買は「地震売買」とも呼ばれた。




  「建物保護に関する法律」の制定 明治42年


・上記のような不備を補うものとして、明治42年に「建物保護に関する法律」が制定されるに至った。

・同法の規定により、建物所有を目的とする土地の売買契約が締結された場合においては、当該賃借権の登記が無いときでも、当該
「建物の登記がなされていることを要件」として、賃借権は「第3者対抗要件を具備」することとなった。

・つまり、建物の所有権の登記をした者は、
「賃借権の登記をしたものと看做す」、とした。


・建物を登記した場合の「家屋番号」は土地の地番と同じなので、当該土地を購入しようとする者は、法務局で土地と同じ家屋番号の確認が可能である。

・建物の登記の有無を確認しないで当該土地を購入した場合には、確認しないで土地を購入した者の落ち度ということになるとされた。




  「旧借地法」の制定 大正10年


・大正10年には、民法の特別法として
「借地法」が制定され、建物の所有を目的とする土地の貸借関係が整理された。

借地法の法的特長
項  目 内        容
借地権の範囲
・借地法第1条では、「借地権とは、建物の所有を目的とする地上権及び賃借権をいう」とされており、その範囲が明確化された。


・竹木は保護の対象から外された。

・工作物には、建物と構築物が含まれるが、
「構築物」に関しては保護の対象から外された。

・構築物には、
「自走式の立体駐車場」、「ド−ム式でない野球場」、「駐車場のアスファルト」、「トンネル」、「鉄橋」、「桟橋」等


借地期間の定め

(法定期間制度の導入)

イ.契約により期間を定める場合


・堅固な建物の所有を目的とする場合・・・・・・・30年以上

・非堅固な建物の所有を目的とする場合・・・・・20年以上

ロ.契約により期間を定めなかった場合

・堅固な建物の所有を目的とする場合・・・・・・・60年の契約を締結したものと認定

・非堅固な建物の所有を目的とする場合・・・・・30年の契約を締結したものと認定

建物買取請求権の行使権
・借地期間が満了しても、まだ借地上の建物が朽廃せず存続する場合には、借地人は地主に対して
「更新の請求」をすることができるものとした。(法定更新ではない)

・上記の場合、地主が更新請求に応じないときは、借地人は地主に対して、
「建物の買取請求権」を行使することができるものとされ、借地人の投下資本の回収手段が保全されることとなった。




  「旧借地法」の一部改正 昭和16年


・昭和16年に
「法定更新制度」が導入された。

・借地期間が満了しても、まだ
「借地上の建物が朽廃せずに存続する場合」には、当該土地を地主が使用する相当の必然性を有する正当な事由がない限り、「契約が自動的に更新」されることとなった。


※これにより、実質的には建物の存続する限りにおける借地期間の延長が図られることとなった。




  「旧借地法」の一部改正 昭和41年


・昭和41年には、地主に代替する許可裁判の制度が導入された。この制度は、借地権(債権である賃借権の場合)の譲渡、又は転貸を地主が承諾しない場合には、借地権者は地主に代替して裁判所に対して
「譲渡等に対する許可の裁判」を求めることができることとされた。

・例えば、借地人が第3者に建物を売却しようとしたが、地主に拒否され場合、裁判所に申立て裁判官が借地人と地主の両者から話しを聞き、借地人により社会性があると判断した場合には、裁判所が地主に替わって
「建物の譲渡を許可できる」こととした。

・これにより賃借権者は、地主以外の第3者に対する投下資本の回収方法を獲得したこととなり、債権である賃借権はこれにより、事実上
「物権化」することとなった。




  「新借地借家法」の制定 平成3年


・平成4年8月1日から、「新借地借家法」が施行され、「旧借地法」は廃止されることとなったが、「経過規定があり」、平成4年7月31日までに締結された「旧借地法」により設定された借地権の更新については、旧借地法の規定による。


借地法の法的特長
項  目 内        容
定期借地権制度の創設
・法定更新制度がなく、当初の契約期間満了時において必ず借地権が消滅するという定期借地権の制度が導入された。

・これにより、借地権の形態は全部で下記の6通りとなった。


@旧借地法から承継された借地権

A新借地借家法の普通借地権

B新借地借家法の定期借地権
(第22条に定める定期借地権)

C新借地借家法の定期借地権
(第23条に定める事業用借地権)


・第23条において、専ら事業の用に供する建物の所有を目的とし、かつ、存続期間を十年以上三十年未満として借地権を設定する場合には、「公正証書」によってしなければならない。



D新借地借家法の定期借地権
(第24条に定める建物譲渡特約付借地権)

E新借地借家法の定期借地権
(第25条に定める一時使用目的の借地権)


借地期間の定め

(法定存続期間)

・新借地借家法に定める法定存続期間は次のとおりとなる。


(当初)借地権の存続期間は、30年以上

(更新)
借地権設定後最初の更新は、20年以上

    2回目以降の更新は、10年以上

建物の朽廃による借地権の消滅規定の廃止
・旧借地法第2条第1項において規定されていた借地期間の満了前における建物の朽廃による借地権の消滅の規定が削除された。

・旧借地法では、
「当事者間が契約期間を定めていない場合」には法定期間により期間が定まり、この期間中に建物が朽廃すると、借地権は消滅するとされていました。なお、旧借地法でも、当事者間で契約期間を定めている場合は建物が朽廃しても期間満了まで借地権は消滅しません。

借地契約の更新時における更新拒絶の要件の明確化
・借地契約の更新時において、地主が更新を拒絶することができる正当の理由がある場合の判断基準を従来よりも明確化した。

(立退料等の財産上の給付の多寡等も判断基準として含めることとなった。)

一定の場合の自己借地権の設定
・借地権を設定する場合において、他の者と共有となる場合に限り、土地所有者自らが借地権者となることができるものとされた。
   
・土地所有者甲の所有地上に、甲及び他の者(乙)が共有とする建物が存している場合、甲は自己所有地に自己借地権を設定することができる。


「自己借地権の設定」は、地主の自己所有マンションを想定して作成された規定である。




  土地賃貸借契約の更新について


・建物所有目的の土地賃貸借契約の更新について、地主は、正当な理由がなければ異議を出せない。(借地借家法6条)。 そして、これは強行規定である(借地借家法6条)ため、地主は更新料を要求できない。
地主が更新料を請求できる場合  
 @土地の借主との間に更新の合意がある場合
 
 A土地の借主との間に更新の合意がない場合は、その地方に更新料支払いの
  慣習、ないし慣習法がある場合である。



 昭和51年10月1日 最高裁判決

・地主は、更新料の商慣習があると主張したが最高裁はこれを認めなかった。また、多くの判例が、更新料の支払いの慣習ないし慣習法を認めていない。


 昭和59年4月20日 最高裁判決

・具体的に更新料支払いの契約をした後に更新料の支払いを怠ったため、賃貸借契約の解除を認めた判決。



  借地上の建物への抵当権設定


抵当権の及ぶ範囲

・借地上の建物に抵当権を設定すると、その抵当権の効力は、「建物」ばかりでなくその「借地権」にも及ぶとされている。

・そこで、当該建物を購入した人・当該建物が担保物権として競売されたときの買受人等は、建物を手に入れることができても、借地権の譲渡を受けなければ、地主の要求により土地を明け渡さなければならなくなる。  


地主の事前承諾書

・金融機関等では、借地上の建物を担保にとる場合は、
「事前に地主の承諾書」をとることとし、とれない場合は、「手続が面倒」となるので、担保価値を低くする。 「手続が面倒」とは、もし地主の承諾が得られない場合は、借地借家法は、「地主に代えて裁判所の許可」を認めているので、この手続をとることとなる。

・借地上の建物を評価する場合は、建物そのものの価値より、借地権の評価がポイントになる。特に都市部のように、借地権割合が大きいところではなおさらである。 そこで、担保設定後も借地人の地代不払い等による
「借地権の解除」が生じないよう地代の領収証の提出を求めるような定期的なチェックが必要となる。



  借地権の譲渡と地主の承諾


・借地権は建物所有を目的とする地上権と、賃借権の2つがありますが、わが国の借地権のほとんどが賃借権となっています。この賃借権に基づく借地権は自由に譲渡することができず、
「譲渡するには地主の承諾が必要」です。地主としては、「この人だから土地を貸している」という借地権者(借地権を有する者)への信頼があるわけです。ですから、地主の知らない間に借地権が譲渡され、借主がどんどん変わっていったら困ります。信頼関係のない知らない人が借主になると、地代を支払わなかったり、建物を無断で増改築したりと、地主に不利益になるような事態が発生し、紛争が生じる危険があります。

・借地権の譲渡をする場合には地主の承諾が必要なのです。もし地主の承諾を得ないで無断で譲渡した場合には、
「契約違反」ということになって「土地の賃貸借契約を解除」されてしまうこともあります。そうすると、せっかく家を買ってくれる人が見つかっていたとしても全部パアになってしまいます。

・この解除権は無制限に認められるわけではありませんが(現在の裁判例では、仮に借地権を無断で譲渡したとしても
「賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない」事情があると裁判所で判断されれば、解除は無効である、とされています。)、判断の基準が難しいので、きちんと地主の承諾をとっておけば紛争はさけられるはずです