相続放棄と3大注意点             



  相続放棄と3大注意点

@.3ケ月以内に家庭裁判所へ申立てを

・相続放棄とは、預貯金や土地のような「プラスの財産」も借金のような「マイナスの財産」も、すべての権利や義務を受け継がないこと。(民法938条)

・相続放棄は、親などの被相続人が亡くなったのを知ったときから、3ケ月以内に相続放棄する相続人の戸籍謄本、亡くなった人の全部事項証明書、改製原戸籍謄本(出生から死亡までのすべての戸籍謄本)、住民票の除票を添付して、
家庭裁判所「相続放棄申述書」を提出すればよい。

・相続人が
「未成年者」「被後見人」の場合は、「法定代理人」(特別代理人)や「後見人」が相続が起きたことを知ってから3ヶ月以内に、相続放棄を申請します。

・3ケ月以内に、相続放棄するか否かの判断が難しい場合は、
「期間伸長の申し立て」の請求によって、家庭裁判所の審判により期間を伸ばすこともできる。

A.被相続人の財産にうかつに手をつけない

・被相続人の財産に手を付けると「単純承認」したものとみなされて、相続放棄が出来なくなる。

・相続放棄ばかりでなく、
「限定承認」についても同様に、選択することが不可能になる。


・葬式費用を工面するために相続直後に預貯金を引き出した場合、かつては家庭裁判所から
「それは財産の処分ではないですか?」と指摘されることもあったが、平成14年7月の高裁判決で処分行為ではないと認められた。

・ただし、預金から引き出した金額が 実際の葬式費用を大幅に超える場合には処分行為と見做される。


・例えば、故人の財産を売却したり、故人の財産から借金を返済したりすると、故人の財産を
「処分」したとみなされ、3カ月以内であっても、相続放棄・限定承認ができなくなる。

     次のような行為は処分したとみなされる。

   @預貯金を引き出し、私的に消費した。

   A預貯金や株券を
「相続人名義」に書き換えた。

   B電話や車の名義を
「相続人名義」に書き換えた。

   C宝石等
「高価な遺品を形見分け」した。

   D債権を取り立てて現金化した
(例えば、医療保険の請求漏れを請求した場合など)

   E株主権を行使した

ただし、次のような行為は、上記の「処分行為」には当たらないとされている。

@故人の家の修繕

A事務的に引き落とされたロ−ン

B通常の葬儀費用の支払い
(平成14年7月3日大阪高裁判決)

C収穫期にある農作物を収穫し換価した。

D
「生命保険金」、「死亡退職金」「遺族年金」については、相続財産ではない為、これらを受け取ったり使っても処分には当たらない。

E通常の形見分け(換金性のほとんどない動産である衣服、靴、バッグ、書籍、時計、アクセサリー、道具類、収集品などは遺産ではなく、一般的に「形見分け」の対象となります。)

F
保存行為(例えば、生物に給餌する等、その生育に必要な維持行為)

G
民法602条(短期賃貸借)に定める期間を超えない賃貸借をすること。

・土地の賃貸借は5年以内、 ・建物の賃貸借は3年以内  ・動産の賃貸借6ケ月以内

H返済期限の到来した債務の支払い


※祭祀の承継者なら墳墓、仏壇、位牌、系譜、祭具などは、相続放棄しても引き継ぐことができます。参照ペ−ジ


 B.2次相続、3次相続に注意する

・相続放棄をすると、相続順位の変更が生じるので、自分が相続放棄をしたことを早急に知らせなければならない。

・例えば、故人の子供が相続放棄をすると、故人の親が相続人になり
(2次相続)、親も相続放棄すると、故人の兄弟が相続人になる(3次相続)。

・第一順位者が相続放棄する場合、第二順位者、第三順位者に相続放棄したことを早急に知らせる必要がある。

・当初の段階で、「相続放棄」ではなく、
「限定承認」を選択すれば、それで完結するので、2次相続・3次相続について心配する必要がない。


・民法915条では、
「自己のために相続の開始があったことを知った時」と規定しているので、例えば、被相続人の死亡日が、平成23.01.25の時に、第一順位の妻・子供が平成23.4.25に相続の放棄を家庭裁判所に申述した場合には、第二順位である被相続人の親は、平成23.7.25までに相続放棄の申述を家庭裁判所にしなければならない。

民法915条

・相続人は、
「自己のために相続の開始があったことを知った時」から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。


事   例 1

・ある日突然、Aさんに借金返済依頼通知が届いた。内容を確認すると、Aさんの父親(故人)の弟で、生前から疎遠になっていた人物(Aさんにとっては叔父)の借入金の返済依頼であった。

・亡き父は、叔父の連帯保証人になっていた訳ではなかった。ではなぜ督促状が届いたのか。

解              説


・叔父には配偶者と子供2人がいました。叔父が亡くなり法定相続人は配偶者と子供2人ですが、多額の借入金があったため、配偶者と子供2人は相続放棄をしていた。

・配偶者は常に相続人になります。子供は第1順位の相続人であり、第1順位の子供が相続放棄すると、第2順位である直系尊属が相続人となる。

・叔父の両親である直系尊属はすでに他界していたため、第2位順位の相続人はいませんでした。第2位順位の相続人がいない場合、第3順位である兄弟姉妹が相続人となる。


・この事例では、第3順位であるAさんの父親が相続人となるが、すでに死亡しているので、亡き父の代襲相続人であるAさんに返済依頼通知が届いた。



  共有名義不動産の相続放棄

事   例  2

・会社の社長が、会社の借金の連帯保証人になっており、自宅は配偶者との共有名義になっていて金融機関の担保に入っていない状態で、社長さんが亡くなられた場合。 当然、相続人は相続の放棄をすると思われるが、社長さん名義の土地建物の1/2共有持分は、どうなるのであろうか。

解              説


・相続放棄がなされると、家庭裁判所が債権者等の要請に基づき「財産管理人を選任」する。そして、その財産管理人が金融機関と交渉することとなる。

・金融機関等は裁判をおこし、
「債務名義を確定」させた上で財産管理人に支払を要求する。

・財産管理人は、遺族と話し合い、債務名義により確定した金額を遺族に支払ってもらうべく社長さん名義の共有持分を遺族の名義にするか、当該居住用財産を売却した上で金融機関等に支払うのか、対処していく。



  不動産を相続放棄したのに固定資産税が・・・

・被相続人に債権のあった債権者が、「債権保全のため債権者代位」により被相続人名義の土地・建物を相続人A名義にする相続登記を行い、「仮差押登記」をした。

・その間にAは被相続人の債務がプラスの財産を上回るとみて、家庭裁判所に相続放棄の手続きを行い受理された。


・この結果、
「債権者は仮差押登記を抹消した」が、相続放棄した不動産の名義は相続登記により、まだAのままだった。

・そして固定資産税の賦課期日1月1日を経過し、4月に市役所から固定資産税・都市計画税を支払うようAのもとに納税通知書が届いた。

・Aは、相続放棄により、もとから不動産を保有していなかったのに固定資産税等が課税されるのはおかしいとして7月に不服を申し立てた。



・しかし、同様に相続放棄で、債権者代位により不動産の相続登記をされ、固定資産税が賦課決定された事案は数多くあり、いずれも課税は適法との判断が下されている。


対 応 策

・錯誤を原因として
「抹消登記」を行い、固定資産税の賦課期日(1月1日)前に名義を変えることがポイントとされる。

・その場合の登記の当事者は、ほかに相続人がいる場合、その相続人が当事者となる。

・仮に固定資産税が課税されたとしても、
「真実の所有者に名義が回復」すれば、次年度からは、相続放棄した相続人には固定資産税の課税はされない。

・また、いったん課税された固定資産税等は、
「真実の所有者対し返還請求」することが可能である。

相続財産清算人の選任

・法定相続人は、相続放棄をした後も家庭裁判所が
『相続財産清算人』を選任するまで、自己の財産と同様の注意をもって管理を行う必要があります。

・相続財産清算人は、相続放棄によって自動的に選任が開始されるわけではなく、利害関係者からの申し立てが必要になりますが、利害関係者には法定相続人のほか住宅ローンなどの抵当権者や債権者が該当します。

・通常、法定相続人は抵当権者などが申し立てるのを待てばいいのですが、他に利害関係者がいない場合は、法定相続人が自ら
「家庭裁判所に清算人選任に係る費用を負担し申し立て」を行わないと、故人の相続財産を延々と管理し続けることになります。

相続土地国庫帰属制度

・2023年に「相続土地国庫帰属制度」が導入され、相続・遺贈で土地を取得した方は相続放棄をせずにその土地の所有権を国庫に帰属させることを求めることができるようになりました。

・しかし、この制度は適応条件が厳しく、
「建物」が建っていたり、「境界が不明確」であったり、「崖」「残置物」・「立木」などにより通常の管理では対応が難しい土地は、受け付けてもらうことができません。 また、これらの条件をクリアし承認されたとしても、所有者は「10年分の管理に要する費用」を負担する必要があります。