相続財産の譲渡と取得費加算            




特別措置法施行令25の16において、相続開始から3年10カ月以内に、相続した土地等を譲渡した場合には、「取得費加算の特例」を認めている。   

・租税特別措置法通達39−18では、「取得費に加算すべき相続税額の再計算」を定めている。

国税庁参考ペ−ジ



  相続財産の土地等の譲渡と取得費加算

事    例 1

1.父は、A土地の売主として、以下4に掲げる条件で平成24年4月に売買契約を締結した後の5月に死亡し、相続人である長男が父に代わり本契約を履行した。

2.相続人         長男・長女

3.相続財産       
        現金              1,000万円
        A土地残代金請求権     9,000万円
        B土地            16,000万円
        その他の財産       25,000万円

4.A土地売買契約の内容

 @譲渡価額    1億円
 A取得費     2,000万円(昭和50年に取得)
 B手付金     1,000万円(平成24年4月に受領済み)
 C譲渡費用    400万円(うち200万円は平成24年4月に支払い済み)

5.遺産分割

 @長男     現金、A土地残代金請求権及びB土地を相続する。
 A長女     その他の財産を相続する。
 B父の債務  法定相続分どおり負担する

解            説


・事例のように売買契約締結後に相続が発生した場合には、当該不動産の譲渡所得の申告は、
「売買契約締結時に所有権移転があったものと看做して」、被相続人である父の譲渡所得として申告してもよいし、「売買代金の受領時に所有権移転登記があったものと看做して」、長男の譲渡所得として申告してもよい。

・父の譲渡所得として準確定申告した場合には、当該申告により納税することになる
「所得税額を、被相続人の債務」として相続税の課税価格より控除できる。

* * * 譲渡所得の帰属者別の税負担一覧表 * * *
  契約効力発生日基準(父の譲渡) 引渡基準(長男の譲渡)
相続人 長 男 長 女 合 計 長 男 長 女 合 計
現 金 1,000 1,000 1,000 1,000
A土地
残代金
9,000 9,000 9,000 9,000
B土地 16,000 16,000 16,000 16,000
その他の
財産
25,000 25,000 25,000 25,000
譲渡所得税 ▲570 ▲570 ▲1,140
譲渡費用 ▲100 ▲100 ▲200
課税価格 25,330 24,330 49,660 26,000 25,000 51,000
相続税 6,970 6,694 13,664 7,239 6,961 14,200
譲渡税 1,140 126 126
税負担合計 14,804 14,326


     譲渡所得税

@契約効力発生日基準による場合(父の譲渡所得)

    10,000万円−(2,000万円+400万円)=7,600万円

     7,600万円×15%(所得税率)=1,140万円


翌年1月1日に被相続人は存在していないので住民税は課税されない−つまり、
「15%の国税分だけ」が、相続税申告において「債務として控除」できる。


A引渡基準による場合(長男の譲渡所得)

    10,000万円−(2,000万円+400万円+6,971万円(注参照))=629万円

      629万円×20%(所得税15%・住民税5%)≒126万円

・翌年1月1日に相続人は存在しているので住民税も課税される−つまり、「15%の国税と5%地方税」を、相続人は納付することになり、相続税申告において債務控除はできないが、「取得費加算の特例」を利用できる。

     
取得費加算の特例


・上記@
「被相続人が譲渡した場合」とA「相続人が譲渡した場合」とどちらが有利なのかは、実際に計算してみないと分らないが、平成27年からは措置法39条が縮減されたので、@を選択した方が有利といえる。

・配偶者がこの譲渡資産を相続し、配偶者に対する相続税額の軽減の特例を適用することによって納 付すべき税額が0 円又は僅少な額になる場合は、措置法39 条の特例の適用は無意味になります。


* * * 注参照 * * *

取得費加算の算式



注1. A土地の譲渡収入金額

注2. B土地の相続税評価額

注3. 債務控除前の相続税の課税価格

注4. A土地の残代金請求権


1.土地等とは、
「土地及び土地の上に存する権利」をいいます。

2.土地等には、
相続時精算課税の適用を受けて、相続財産に合算された贈与財産である土地等や、相続開始前3年以内に被相続人から贈与により取得した土地等が含まれる。

3.相続開始時において
「棚卸資産」又は準棚卸資産であった土地等や「物納した土地等」及び「物納申請中の土地等」は含まれません。


・ただし、既にこの特例を適用して取得費に加算された相続税額がある場合には、その金額を控除した額となります。




  居住用財産の譲渡と3,000万円の特別控除

・居住用財産の譲渡として3,000万円の特別控除の適用ができる場合には、被相続人の譲渡ではなく、相続後の複数人の譲渡を選択した方が、有利である。また、相続人が譲渡すれば「取得費加算」も使える。

・被相続人の譲渡として申告すれば、3,000万円の特別控除しか受けられないが、3人の相続人がいて、相続後に居住用財産として申告すれば、
「3,000万円×3人=9,000万円」の特別控除を受けることができる。



  相続財産の土地等以外の財産譲渡と取得費加算




  確定申告(不動産譲渡所得)に添付する書類


@相続税の申告書の写し(第1表、第11表、第11表の2表、第14表、第15表)

A相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書

B譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書[土地・建物用])や株式等に係る譲渡所得等の金
 額の計算明細書など