農地の相続税・贈与税納税猶予制度             


   
※相続や贈与による農地の分散を防止し、農業後継者を確保する観点から一定の要件の下で相続や贈与により農地を取得した場合に、相続税や贈与税の納税を猶予する税制の特例措置である。
(特別措置法70の4)


・農地を相続により取得した場合には、
「農業委員会への届出」が必要である。(農地法3条の3)

     

  相続税の納税猶予額が免除される要件
  
納税猶予額が免除される要件

@農業相続人が死亡した場合

A申告期限後20年間農業を継続した場合

(平成21年の改正で撤廃され、「市街地農地以外の農地」については、「終身営農」することが要件となった。)

B相続人が農地の全部を農業後継者に一括生前贈与し、その
「贈与税について納税猶予の特例」を受ける場合


  相続税の納税猶予制度とは
  
納税猶予額制度とは

・農地等を相続した人が、将来とも農業を営む場合、農地等の価格のうち
「農業投資価格」を超える部分に対応する相続税については、一定の要件のもとに一定期間猶予しその期間農業経営が継続されたとき、相続税額の納税を免除する制度です。

    

・この制度の適用を受けるためには、申告期限内に「農業委員会」が発行する「相続税納税猶予適格者証明」等を相続税申告書と共に税務署に提出する必要があります。

   
※農業投資価格とは、相続税や贈与税を課税するときの財産を評価する基準を示した
「財産評価基準」の一つであり、農地等(農地、採草放牧地、森林など)が恒久的に農業用に使われる場合に、通常の取引が成立する価格として公示された価格のこと

  
・農地についての相続税の納税猶予制度   
特別措置法70−6


・農地についての贈与税の納税猶予制度   
特別措置法70−4


・このように納税猶予の特例を受けた農地を
「特例農地」と呼んでいる。


   ・納税猶予額に係る利子税については、
「税率を3.6%」とする。

被相続人が、農業相続により相続税の納税猶予を受けていた場合

・税務署に対し、
「免除届出書」を提出すると共に、除籍謄本も添付する。


  農業相続人の要件

農業相続人の要件

@申告期限までに、農業経営を開始し、その後も引き続き農業経営を行うと認められる農業相続人

   
※対象者は、被相続人が死亡した時において、農業に携わってなくてもいいし、未成年者でもサラリ-マンでもいいことになっている。


A農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、
「特例付加年金」又は「経営移譲年金」の支給を受けるためその推定相続人の1人に対し農地等について使用貸借による権利を設定して、農業経営を移譲し、税務署長に届出をした人(贈与者の死亡の日後も引き続いてその推定相続人が農業経営を行うものに限ります。)

B農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、障害、疾病などの事由により自己の農業の用に供することが困難な状態であるため賃借権等の設定による貸付けをし、税務署長に届出をした人
(贈与者の死亡後も引き続いて賃借権等の設定による貸付けを行うものに限ります。)

C相続税の申告期限までに特定貸付けを行った人
(農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者である場合には、相続税の申告期限において特定貸付けを行っている人)


  適用を受けるための要件
  
適用を受けるための要件

@被相続人は、死亡の日まで農業経営を行っていた個人、または、農地の生前一括贈与を行った人であること。
(被相続人が、死亡の日まで受贈者が贈与税の納税猶予又は納期限の延長の特例の適用を受けていた場合に限られます。)

A相続人は、
「相続税の申告期限までに農業経営を開始」し、その後も引き続き農業経営を行い相続した農地を不耕作にすることなく、将来にわたって適切に管理できると認められる人であること。

B適正に耕作されている農地であること。

C首都圏における市街化区域内の農地の場合は、相続が発生した時点で、既に
「生産緑地の指定」受けていること。

D被相続人は、死亡の日まで相続税の納税猶予の適用を受けていた農業相続人又は農地等の生前一括贈与の適用を受けていた受贈者で、
「障害、疾病などの事由により自己の農業の用に供することが困難な状態」であるため賃借権等の設定による貸付けをし、税務署長に届出をした人であること。

E死亡の日まで
「特定貸付け」を行っていた人であること。

「特定貸付け」とは、市街化区域内農地等以外の農地又は採草放牧地について行う地上権、永小作権、使用貸借による権利又は賃借権(賃借権等といいます。)の設定による、次のイからハまでのいずれかの貸付けをいいます。


イ  
農業経営基盤強化促進法第4条第2項に規定する「農地保有合理化事業」のうち同項第1号に掲げる農地売買等事業のために行われた貸付け ※ 被相続人が行っていた上記(注)イの貸付けには、次の貸付けが含まれます。

1  農地法等の一部を改正する法律(平成21年法律第57号)(改正農地法といいます。)による改正前の農業経営基盤強化促進法(旧基盤強化法といいます。)第4条第2項に規定する農地保有合理化事業のために都道府県農地保有合理化法人(同法第7条第1項の承認を受けた法人(同法第5条第2項第4号ロの規定により農業経営基盤強化促進基本方針に定められた者に限ります。)をいいます。)に対し行っていた貸付け((注)ハの※印に該当するものを除きます。)

2  旧基盤強化法第4条第2項に規定する農地保有合理化事業のために旧市町村農地保有合理化法人(同法第7条第1項の承認を受けた法人(同法第6条第3項の規定により農業経営基盤強化促進基本構想に定められた者に限ります。)をいいます。)に対し行っていた貸付けのうち、旧市町村農地保有合理化法人が、改正農地法附則第12条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされている旧農地売買等事業(旧基盤強化法第4条第2項第1号に規定する農地売買等事業をいいます。)を実施している場合におけるその貸付け((注)ハの※印に該当するものを除きます。)

ロ  
農業経営基盤強化促進法第4条第3項に規定する「農地利用集積円滑化事業」のうち同項第1号イ又は同項第2号に掲げる農地所有者代理事業若しくは同項第1号ロに掲げる農地売買等事業のために行われた貸付け ※ 被相続人が行っていた上記(注)ロの貸付けには、旧基盤強化法第4条第2項に規定する農地保有合理化事業のために旧市町村農地保有合理化法人に対し行っていた貸付けのうち、旧市町村農地保有合理化法人が、農業経営基盤強化促進法第11条の9第1項の規定により農地利用集積円滑化事業規程(同項に規定する農地利用集積円滑化事業規程をいいます。)の承認を受けている場合におけるその貸付け((注)ハの※印に該当するものを除きます。)が含まれます。

ハ  
農業経営基盤強化促進法第20条に規定する「農用地利用集積計画」の定めるところにより行われた貸付け ※ 被相続人が行っていた上記(注)ハの貸付けには、旧基盤強化法第20条に規定する農用地利用集積計画の定めるところにより行っていた貸付けが含まれます。



  特例農地等の要件
  
特例農地等の要件

@被相続人が農業の用に供していた農地等で相続税の申告期限までに遺産分割された農地等

A被相続人が
「特定貸付けを行っていた農地又は採草放牧地」で相続税の申告期限までに遺産分割された農地又は採草放牧地

B被相続人が
「営農困難時貸付けを行っていた農地等」で相続税の申告期限までに遺産分割された農地等

C被相続人から生前一括贈与に取得した農地等で、被相続人の死亡の時まで贈与税の納税猶予又は納期限の延長の特例の適用を受けていた農地等

D相続や遺贈によって財産を取得した人が相続開始の年に被相続人から生前一括贈与を受けていた農地等


  作物の範囲
  
作物の範囲

・作物は、穀物、蔬菜
(そさい−人が副食物とする草本作物の総称。食用とする部分により、根菜類・茎菜類・葉菜類・花菜類・果菜類に大別される。 )類にとどまらず、花卉(かき−用語解説 - 観賞用になるような美しい 花をつける植物の総称)、桑、茶、たばこ、梨、桃、りんご等の食物を広く含み、それが林業の対象となるようなものでない限り、永年性の食物でも妨げない。
  
・例えば、
「農家が玄関先で農作物」を作っているような場合には、当該土地は農地として扱われる。


「永年性の食物」とは、一旦植えれば毎年実をつける栗、柿、梅、いちぢく等をいい、天然のものではなく、堆肥等を常時加えているものをいう。



  適格者証明書
 
適格者証明書

・農業委員会から
「相続税の納税猶予に関する適格者証明」の用紙をもらい、その用紙に記入した上で証明してもらうこととなるが、その際、下記のものを持参する必要がある。

@相続により取得することとなる農地が明示されている
「資産証明書」

A納税猶予を受けようとする農地を記載した
「相続税申告書 別表第12表」農業委員会の台帳に登録されている農地でなければならない。

B
「遺産分割協議書」(誰が農業相続人として農地を取得するのか確認する必要がある。)

※現況農地であるにもかかわらず地目が
「雑種地」「原野」となっている場合には、農業委員会から
「農地改良届」をもらい、それに記入して申請する。
  
・農業委員会では、改良届が提出されると、現地を見に行き農地として利用されていると確認した後、
「許可証」を発行する。

・申請者は「許可証」を司法書士を通して地目の変更登記をし、約1ケ月以内に法務局から市役所の資産税課に連絡が行き、
資産証明書の「地目変更」となる。


簡便法

・農業委員から市役所の資産税課に電話にて事情を説明しておいてもらい、その上で市役所の資産税課に直接
「変更届」を提出すると、市の担当者が現地を見に行き「地目」を変更する。

・その後、市役所から法務局へ通知が行き登記簿謄本の地目も変更となる。
    

  納税猶予を受けるための書類

納税猶予を受けるための書類

・納税猶予を受ける為には担保を提供する必要がある。  添付書面として下記の書類が必要である。

・また、市区町村の農業委員会から
「特例農地等該当証明書」
を発行してもらう必要がある。
  
       @担保提供書    A抵当権設定登記承諾書    B不動産の表示

  
・被相続人が納税猶予を受けていた場合には、税務署に
「相続税の免除届出」を提出し、農地に設定されている財務省の抵当権をはずしてもらう。

・相続人が、農地の生前一括贈与を受けていた場合には、税務署に
「贈与税の免除届出」を提出する。


事  例

・税理士Aは、相続人より「農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」の適用を依頼され、申告書を作成提出した。

・しかし、
「担保提供に関する書類の提出は、相続登記完了後でよいと誤認」し、申告期限までに提出しなかった。
   
※税務署から担保提供に関する書類が提出されていない旨の連絡を受け、初めて提出失念に気が付いた。



・納税猶予の適用を受けることができず、税理士Aは、損害賠償請求を受けることとなった。



  特例適用を受けられる農地
 
特例適用を受けられる農地

  @現に耕作されている農地

  A現在は耕作されていないが、いつでも耕作ができるような農地
(保全管理田など

    B植木畑
(苗木であり、きちんと管理されていること

  C土地区画整理事業区域内の農地
(ただし、従前地及び換地後の土地の農地であること

  D療養等により、他人に一時的に使用させていること


・猶予期間中に「身体障害等」のやむを得ない事情により営農が困難になった場合は、 農地の貸付け(営農の廃止)をした時についても納税猶予の継続を認める。

「災害・疾病等」のやむを得ない事情のため一時的に営農できない場合についても営農継続しているものとする。


・疾病障害の程度は、
「精神障害者手帳」に障害等級が一級、「身体障害者手帳」に障害等級が一級又は二級、「介護保険法」の要介護認定区分が五と記載されたものが該当します。

       
E耕作、または養蓄のための採草、または家畜の放牧の目的に供されるもの
(採草放牧地)

F10年以内に農地や採草放牧地に開発するものとして、農業振興地域整備計画において用途区分がされているもの
(準農地)

G納税猶予の適用対象となっている農地を農業用施設用敷地とする場合


   特例適用を受けられない農地
  
特例適用を受けられない農地

  @家庭菜園
(宅地の一部を一時的に耕作しているもの

  A工場敷地や運動場を一時的に耕作しているもの

  B宅地の空閑利用

  C農作業場の敷地

   
・贈与時
(相続開始時)において、農作業場の敷地となっている土地は、農地法第2条第1項に規定する農地又は採草放牧地に該当しないことから、贈与税(相続税)の納税猶予の特例の対象にはならない。



  D温室の敷地

   
・贈与時
(相続開始時)において、温室の敷地となっている土地は、その土地を従前の農地の状態のまま耕作を継続している場合には、農地に該当し、その敷地を農地以外のものとして直接耕作の用に供しない場合、例えば、「温室の敷地をコンクリ−ト等で地固め」するなど農地以外のものとした場合には、たとえ、その上に土を盛って作物を栽培しているときであっても、温室の敷地は農地に該当しないことから、贈与税(相続税)の納税猶予の特例の対象にはならない。



  E農業のかんがい用のため池

   
・贈与時
(相続開始時)において、農業のかんがい用ため池の用に供されている土地は、農地法第2条第1項に規定する農地又は採草放牧地に該当しないことから、「準農地」に該当する場合を除き、贈与税(相続税)の納税猶予の特例の対象にはならない。



  F蓄舎、牧舎の敷地

   
・贈与時
(相続開始時)において、畜舎の敷地となっている土地は、農地法第2条第1項に規定する農地又は採草放牧地に該当しないことから、贈与税(相続税)の納税猶予の特例の対象にはならない。



  G養魚に利用している土地

   
・農地には、現に耕作されている土地のほか、その現状が耕作し得る状態にあり、通常であれば耕作されているものが含まれるので、贈与時
(相続開始時)において、水田を従前の状態のままで水を張って「一時的に稚魚を飼育」している場合には、当該農地は農地に該当することから、贈与税(相続税)の納税猶予の特例の対象にはなる。


・ただし、当該土地を通常の水田として利用するのに必要な程度を超えた畦畔
(けいはん)の補強、本地の掘削などをして「養魚池」とした場合には、当該土地は農地に該当しないことから、特例の対象となる農地には当たらない。


  H植木の植栽されている土地

   
・贈与時
(相続開始時)において、植木を育成する目的で苗木を植栽し、かつ、その「苗木の育成について肥培管理」を行っている土地は、農地に該当することから、贈与税(相続税)の納税猶予の特例の対象にはなる。


・ただし、既に育成された植木を販売する目的で
「販売するまでの間一時的に仮植しておく土地」は、たとえ、その間その商品価値を維持するための管理が行われているとしても、農作業場の敷地となっている土地は、農地法第2条第1項に規定する農地又は採草放牧地に該当しないことから、贈与税(相続税)の納税猶予の特例の対象にはならない。


  I農業協同組合の受託経営に委託された農地

  J貸し農地


  添付書面の記載例


税理士法第33条の2の添付書面の記載例

・S市○○5番地2  畑

・倍率地域の畑であり、農業振興地域内農用区域に該当しない(○○市役所産業振興課にて確認済)

・登記簿、課税地目ともに、地目は畑であり面積は330uとなっているが、現況確認において、当該畑は@畑部分 A物置設置部分 B農業用機械の搬入路部分が混在していた。

・現地にてABの部分を簡易測量し、全体面積330uからABの各面積を控除した残面積を@の面積とした。

・農地の納税猶予計算に際しては、上記@のみを特例の適用対象としている。



  贈与税の納税猶予を受けるための要件
  
贈与税の納税猶予を受けるための要件

@受贈者(贈与を受けた人)は、贈与者の推定相続人であり
「18歳以上」であること。

A受贈者は、贈与を受けた日まで引き続き
「3年以上農業に従事」していたことについて農業委員会に証明された者であること。

B贈与者の所有する
「農地(耕作権、地上権など農地の上に存する権利を含む)の全部」が贈与されること。
   
「採草放牧地」、「準農地」を所有している場会は、全部ではなく、その「3分の2以上」であればよい。



C受贈者は贈与を受けた後、速やかにその農地での農業経営を開始すること。
 
D受贈者は、特例の適用を受ける旨の申告を期限内(贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日)にすること。

E納税が猶予される税額(利子税の額を含む)に見合う担保を提供すること。
   
・農地の生前一括贈与を受けた場合には
「不動産取得税の納税猶予」を申請する必要がある。

・そして、「不動産取得税の納税猶予」については、3年に1度更新する必要がある。

  
・農業の納税猶予とは関係ないが、住宅用地を購入した場合には、
「住宅をすぐ建てる」のが分っている場合には、不動産取得税の納税猶予を受けることができる。



  納税猶予の継続届出書の提出

農地の相続税の納税猶予

・農地等についての相続税の納税猶予の適用を受けた場合には、3年ごとの「納税猶予の継続届出書」の提出が必要である。

非上場株式の相続税の納税猶予

・非上場株式の相続税の納税猶予の適用を受けた場合の
「継続届出書」の提出については、最初の5年間は毎年、その後は3年ごと