相当の地代と通常の地代



  相当の地代(法人税基本通達13−1−2)とは

概    要

・相当の地代に関する制度は、昭和38年に創設された制度であり、土地の賃貸借当事者のいずれか一方が法人である場合を想定している。

・権利金と地代の関係は、権利金が多くなれば、地代が少なくなり、権利金が少なくなれば地代が大きくなるという関係にあります。

・平成元年3月30日から、相当の地代は8%から
「6%」に変更となった。

・この関係において
「借地権価額がゼロになる地代を相当の地代」といい、その金額は次の算式で求めることとしています。

関連条文 法人税法施行令137条 法人税基本通達13−1−8(相当地代の改定)


相当の地代=土地の更地価額×おおむね年6% 

・ つまり、この相当の地代を授受しているときは、借地権価額はゼロとなり、権利金の認定課税は行われないということです。
(法人税基本通達13−1−7)


・従って、相当の地代を授受しているときは、土地の賃貸借契約が終了して土地を返還する場合でも、立退料等を授受する必要も無く、当然に
「無償返還する」ことになる。



・この場合において、
「土地の更地価額」とは、借地権設定の時における更地としての通常の取引価額をいうものとされているが、次の@からBに掲げる方法により計算した価額をもって土地の更地価額とすることも認められている。

 @ 
・当該土地につき、その近傍類他の公示価額や標準価格から合理的に算定した価額

昭和55年改正事項、直法2−15法人基本通達改正により適用開始
A
・当該土地につき、財産評価基本通達により計算した価額自用地としての相続評価額

昭和55年改正事項、直法2−15法人基本通達改正により適用開始
B
・当該土地につき、Aにより計算した価額の
「過去3ケ年の平均額」

平成元年3月30日付個別通達により適用開始  

※路線価が時価(現在は公示価額が時価と同じ)の8掛けとなったのは、平成4年から、平成3年は7掛け、それ以前はル−ルなし。

・平成2年以前は、公示価額は時価の7掛け、路線価は公示価額の6又は7掛けだったので、当時としては
昭和55年改正により、半値以下に下がることになり画期的な出来事だった。


・これにより、法人税においては、
「相当の地代の計算方法」が4通り存在することとなった。

 @ 
・その年における当該土地の通常の取引価額×年6%

A
・その年における当該土地につき公示価格や ×年6%
標準価格から合理的に算定した価額

B
・その年における当該土地につき財産評価基本通達 ×年6%
により計算した価額(相続税評価額)

C
・当該土地につき、財産評価基本通達により計算した ×年6%
価額の過去3ケ年の平均額


事    例 1

・次の場合における相当の地代はどのようになるのか。

   土地の価額
(通常の取引価額)・・・・・・・・・・・・・100,000千円(その年)

         
(公 示 価 格)・・・・・・・・・・・・・・・90,000千円(その年)

           
(相続税評価額)・・・・・・・・・・・・・・・72000千円(その年)

                                60,000千円(前年)

                                48,000千円(前々年)

   借地権割合   80%

   
ケ−ス1 ・・・・・・・・・・・・・・・権利金を全く収受せず、相当の地代を収受する場合

   
ケ−ス2 ・・・・・・・・・・・・・・・権利金を30.,000千円30%収受し、残余について相当の地代を収受する場合

解              説


 ケース1の場合

相当の地代の計算基準 相当の地代の年額の計算
通常の取引価額方式 100,000千円 × 年6% = 6,000千円
公示価額等比準方式 90,000千円 × 年6% = 5,400千円
相続税評価額(その年)方式 72,000千円 × 年6% = 4,320千円
相続税評価額(3年平均)方式 (72000千円+60000千円+48000千円)×1/3×年6%
=3600千円

 ケース2の場合

相当の地代の計算基準 相当の地代の年額の計算
通常の取引価額方式 (100,000千円−30,000千円) × 年6% = 4,200千円
公示価額等比準方式
(90,000千円−27,000千円) × 年6% = 3,780千円
相続税評価額(その年)方式
(72,000千円−21,600千円) × 年6% = 3,024千円


相続税評価額(3年平均)方式
{(72,000千円+60,000千円+48,000千円)×1/3−18000千円}
×年6%=2,520千円


・収受した権利金30,000千円は、時価ベ−スなので、それぞれ選択した評価ベ-スに合わせて圧縮する必要がある。


* * * 注意すべき事項 * * *

・「相当の地代」は、上記4方式の中の1つを選択しなければならず、その金額の範囲内であればよい、ということではない。つまり、どの算式により相当の地代を算出したのか、「記録を保管」しておかなくては、税務調査に対応できない。


・「相当の地代」の設定、つまり
「入り口段階」では法人税に定めた上記4方式の中の1つを選択できるが、「出口段階」、つまり相続が発生しその評価においては、相続税個別通達で定めた相続税評価額(3年平均方式)だけである。



  相続税における相当の地代とは

昭和60年の個別通達

・相続税法における「相当の地代」の規定は、昭和60年に個別通達として整備され、その計算式は、
「相続税評価額(3年平均)方式」だけである。

・相当地代通達として、諸々を規定している重要な通達である。


  「法人税における相当の地代」と「相続税における相当の地代」の使い分けは

入り口課税の段階

・権利金の支払いに代えて、相当の地代を設定する際には、当事者が
「法人」であろうと「個人」であろうと、4つの方式の中から自由に選択適用してかまわない。

・4計算方式の中から自由に選択してかまわないが、一度選択したらその方式を踏襲しなければならない。
中途変更することは利益操作と看做される。


出口課税の段階

・相続が発生した場合の評価は、「入り口」において4計算方式のどれを選択していても、「相続税評価額(3年平均)方式」だけである。


  「相当地代の改訂

法人税基本通達13−1−8

・その借地権の設定等に係る土地の価額の上昇に応じて順次その収受する地代の額を相当の地代の額に改訂し、その旨を借地人等との連名の書面により遅滞なく当該法人の納税地の
「所轄税務署長に届け出る」ものとする。

「相当地代の改訂方法に関する届出書」
を税務署に提出

・一般的には、土地価額の上昇があっても相当の地代を改訂することなく、据置にしておくケ−スが多いと思われる。


・地代改訂の届出を税務署に提出している場合には、
「土地の無償返還の届出」は提出できない、考えられる。木下勇人先生



  「相当地代の引き下げ」の問題点

法人税基本通達13−1−4

・法人借地人が、借地契約において
「相当の地代」方式を選択した場合に、相当な理由がないにもかかわらず地代を引き下げた場合には、「認定課税の問題」が生ずる。

・従って、法人借地人が、自社の
「経営状況の悪化を理由に地代を減額」しようとした場合、実質的に認定課税を受けることを条件に減額が認められることになるため、地代の引き下げに踏み切れないケ−スも少なからず見受けられる。



  自然発生借地権方式の非現実性

・「相当の地代」方式で、地価の変動があっても当初の地代を据え置く方式を選択した場合には、その後の土地の路線価が上昇した場合には、その上昇部分に対応するいわゆる自然発生借地権は借地人に帰属することになり、土地
(底地)の評価額は一定額が維持される。

・これは、現行制度が創設された当時において、土地の価額が上昇し続けていたことから、相続税負担が過重にならないための手段として、ある意味技術的に考えだされたものと想定される。


・現にバブル期においては、この方式を選択したことにより、路線価の上昇による相続税等の負担が圧縮されたケ−スは少なからずあったものと思われる。

・しかしながら、これはあくまで机上の考え方であり、現実には起こり得ない現象であることに加え、路線価が下落した場合には、逆の現象が生じてしまうなど、制度自体に問題があるように思われる。