海外財産の贈与と課税           



  武富士事件

武富士事件

・まず、武富士の株式をオランダの法人に、時価の2分の1以上の価額で売却した。

・父が武富士株を所有するオランダ法人株を香港に住む長男に贈与した。 当時の法律では
「 外国に住む者が国外財産を贈与によって取得した場合、贈与税は課税されない」となっていました。

・したがって、国外財産であるオランダ法人株式を香港に住む武富士長男が贈与によって取得しても日本の贈与税は課税されない、はずです。

・しかし、この贈与税が課税されないということについて国税側は異議を唱えました。 この異議の内容を噛み砕いて説明すると、国税側は、この香港への移住は租税回避(贈与税の回避)を目的としたものであって、また完全に香港に滞在していたわけではなく、日本にも滞在していたことなどを理由に長男の生活の本拠は日本にあると主張しました。 そして国税側は1,600億円の申告漏れを指摘し、1,300億円を追徴課税しました。

・ 租税回避についての簡単な説明については 脱税と節税の違いはなにか?ちなみに租税回避も。 に記載しています。 この国税の対応に関して、長男は応戦。

・長男は、通算3年半日本を離れており、そのうち3分の2を香港で過ごしている。武富士の常務として人事の管理と武富士の子会社である香港法人の代表者との仕事をしていた。

・長男は40歳であったが独身であり、香港ではサ−ビスアパ−トに居住していたが、最高裁判所は、別に不自然ではないとしている。

・納税者の住所がどこかの判断は、下記の要素を元に判断される。

* * *
・住居がどこにあるのか
・生活を一にする配偶者等の親族の居所がどこか
・どこで職業に就いているのか
・資産がどこに所在するか



  海外財産の贈与と課税

平成12年以前の租税回避行為

・相続発生前に財産を国外に移転し、国外に住所を有する子供に相続させる。

・子供が国外に住所を移した後に、国外に財産を移転し、その国外の財産を子供に贈与する。

・日本では贈与をうけた者が贈与税を納税する義務があるが、アメリカでは贈与する者が贈与税を納税するぎむがある、という制度の違いを利用して、贈与税を回避しようとするもの。

平成12年税制改正


  相続税の納税義務者の特例の創設

・相続、贈与により国外にある財産を取得した個人でその財産を取得した時において、
「日本国籍を有している者」は、国内に住所を有していなくても、その者又はその相続、贈与等に係る「被相続人、贈与者がその相続、贈与の開始前5年以内に国内に住所を有したことがある場合」は、相続税、贈与税を納める義務がある。


令和3年税制改正

・令和3年の税制改正により、日本に居住する在留資格を有する者、短期間在留している者や国外に居住する外国人等への相続・贈与においては、
「居住期間に関係なく国内財産のみを課税対象」とすることとなった。



最高裁 平成23年2月18日判決

「武富士事件」では、社長が専務である息子に、国外にある財産を、国外(香港)にいる息子に贈与したが、息子は日本国籍を有しており、贈与の5年以内に日本国内に「住所」を有していたが否かが争われた。

・オランダの会社に武富士の株式を移し、国外の財産としそれを海外にいる子供に当該株式を贈与した。そして、贈与した年月日が、平成11年12月と、
法律が施行された平成12年1月1日前だったために、裁判所もこれを認めた。

・住所とは、生活の本拠を言うが、裁判では生活の本拠は香港である、と認定され納税者が勝訴した。



・仕事以外も含めた香港での滞在日数の割合は約65%、国内滞在の割合は約26%だったとして「生活の本拠は香港である」と判事した。

・ちなみに、香港には贈与税が無い。



  平成25年税制改正

・平成25年4月1日から、日本国内に居住している人から、国外にある財産を取得した個人が、取得した時国内に住所を有さず、かつ
「日本国籍を有しない場合でも、」その被相続人(贈与者)が相続時等において日本に住所を有していれば制限納税義務を負う(相税1条の3 第2号ロ、1条の4第2号ロ)。

・日本に住所の無い外国籍の人に、日本国内財産、又は海外財産を贈与した場合には、贈与税の対象になる。

・つまり、贈与者が日本国内に居住していれば、贈与した相手が
「相手が外国国籍」であっても、また贈与する財産が、「日本国内財産」であろうと「海外財産」であろうと、贈与税の課税対象になる。(相続税法1の4二ロ)

・平成12年に設けた、贈与した相手の「日本国籍要件」を訂正した。

      

  海外居住の親族への贈与

事    例 2

・海外の大学院に留学している子への送金(学費、生活費など必要な支出に充当)

・この場合には、贈与となるのか。

解            説


相続税法21の3@二

・扶養義務者間において授受される生活費、教育費で通常必要とされるものについては、非課税財産として規定されている。

・この非課税制度は、海外に居住する親族等に対する贈与にも適用する。

* * *  * * *

・海外にいる子が、日本に居住している親からの送金により生活していることから、相続税法上
「非居住無制限納税義務者」に該当する。(相続税法1の3二イ)