純資産価額方式における勘定科目の処理ポイント(2)             



  負債の部


 勘 定 科 目  留  意  点
貸倒引当金 ・引当金、準備金については、相続税評価額、帳簿価額のいずれも負債に計上しない。(財産評価通達186)
 退職給与引当金 ・取り崩しに係る「経過措置期間中の残高」は、相続税評価額、帳簿価額のいずれも同一金額を計上できる。(財産評価通達186)
 繰延税金負債 ・「税効果会計」を適用した場合の繰延税金負債は、将来の法人税等の支払いを増額する効果を有し、法人税等の未払額に相当するため、負債としての性格を有するが、引当金と同様に確実な債務ということはできない。従って、相続税評価額、帳簿価額ともに負債に計上しない。
割賦販売引当金
(繰延割賦売上利益)
・割賦販売による売買は、その代金を回収するまでに相当の期間を要することから、法人が割賦販売基準を適用して収益の分割計上の経理を行った場合には、法人税の課税上、未実現利益の控除が認められている。

・しかし、株式の評価上、当該金額を負債として控除することは下記の理由により出来ない。

・割賦販売は、契約と同時にその効力が生じるものであり、その商品等を引き渡した時に収益が実現しているものであること

・割賦販売基準は、
「法人税の課税上特例」として認められているものであり、相続税における株式の評価に係る純資産価額の計算についてまで認められているものではないこと

・取引相場の無い株式又は出資の時価を純資産価額方式により評価するに当たっては、相続開始時において、その法人に帰属している経済的価値を純資産として評価すべきものであるから、
総資産価額から控除されるのは、支払先の確定した対外債務であること
 未払法人税等 ・仮決算を行わない場合は、前期分の確定した法人税等を負債に計上する。(財産評価通達186)

評価通達186の解説

・株価計算の原則は、課税時期に仮決算を組むことがであるから、仮決算を組んだ際に法人が任意的の負債として計上している「納税引当金」、「他引当金、準備金等」については、負債への計上は認めない、と説明している。

・しかし、「仮決算を組んだ際に、未払法人税等が存在する場合には、負債として認めます」、と説明している。


・上記の「仮決算を組んだ際に、未払法人税等が存在する場合」とは、例えば3月決算法人において、法人税等の支払期限である5月末が到来する前に、株主が死亡した場合には、仮決算を組むことにより生じる4/1〜死亡時までの所得に対する法人税等+前期未納法人税等(5月末に支払う分)の合計金額が、B/Sの未払法人税等として負債に計上することになる。

・通常は、株価の計算においては仮決算を組まず、直前の決算書から算定するので、当該直前決算書の、
「未払法人税」、「未払市県民税」、「未払消費税」については、負債として計上してなんら問題は無い。  

 未払退職手当金 ・被相続人の死亡後に支給される「死亡退職金」を相続評価、帳簿価額ともに負債に計上する。(財産評価通達186)
 未払弔意金

認められない
・被相続人の死亡後に支給される「死亡弔意金」については、下記の裁決がある。

平成16年4月22日裁決 裁決事例集 No.67 - 696頁

・取引相場のない株式の課税時期における1株当たりの純資産価額の計算を行う場合、退職手当金等も弔慰金も、課税時期において確定している債務ではないから、本来、評価会社の純資産価額を算定するについての負債とはならないものである。  

・しかしながら、退職手当金等については、相続税法第3条第1項第2号の規定により相続又は遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税価格に算入されて課税されるため、評価会社の純資産価額の計算において
「負債に計上しなければ、相続税において実質上の二重課税が生じる」ことになるので、退職手当金等を負債として計上する必要があり、財産評価基本通達186において、負債に含まれるものとして取り扱われているものであり、この取り扱いは当審判所においても相当と認められる。

・一方、弔慰金については、
相続財産とはみなされず、実質上の二重課税とはならないので、弔慰金を負債に計上する必要はない。したがって、「弔慰金を負債に計上することはできない。」と解するのが相当である。
 社葬費用 ・被相続人に係る葬式費用を会社が負担した場合のその金額を負債とする。
 保険差益に対する
法人税等
・被相続人の死亡により受け取る保険金が確定しているときは、直前期の確定した法人税等とは別に、「保険差益に対する法人税等の額」を負債に計上することができる。(財産評価通達186−2)


  受取生命保険金を原資として死亡退職金を支払う場合

・課税時期の直前期末の資産・負債に基づいて評価する場合においても、課税時期において被相続人の死亡により評価会社が受け取るべき保険金収入が確定しているときは、その保険金請求権(未収保険金)を資産計上しなければ ならない。

・ただし、その保険差益に対する法人税等の額
(保険差益の額の37%相当額)は、「直前期の法人税等とは別に、負債に計上」することができる。

・この場合の保険差益の額は、受取保険金の額未収保険金から保険積立金の額控除し、その保険金を原資として死亡退職金を支給するときは、その
「退職金の額を控除」した金額となる。

保険差益の額の計算式

・保険差益の額= 受取保険金額 − 保険積立金 −保険を原資とする死亡退職金額−別表7の繰越欠損金


  ※別表7に繰越欠損金がある場合には、その金額も保険差益から控除することとなる。


・保険差益に対する法人税等の額=保険差益の額 × 37%

・平成28年4月1日から、法人税率が引き下げられているので、
「37%」になる。平成28年3月31日までは、38%であった。

参照 評価差額に対する法人税額等に相当する金額-
「国税庁の財産評価基本通達186−2」です。 別添 取引相場のない株式等の評価(純資産価額方式における法人税等相当額)


 事     例  1 

     ・受取保険金額      8,000万円

     ・保険積立金額      1,000万円

     ・死亡退職金額      5,000万円

   保険差益の額
      8,000万円 − 1,000万円 − 5,000万円 =2,000万円

   保険差益に対する法人税等   2,000万円 × 37% =740万円


  子会社株式の含み益の取扱い

・子会社株式に含み益がある場合、つまり子会社の業績がよく、当該株式を購入した時より評価が増加している場合には、
「法人税相当額37%の控除」ができるので、評価を下げることができる。


  議決権割合50%以下の場合の取扱い

・株式の取得者と同族関係者の有する議決権の合計数が評価会社の「議決権総数の50%以下」である場合においては、上記により計算した1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)に「100 分の80」を乗じて計算した金額とする。財産評価通達185



  固定資産税・都市計画税の取扱い

事    例  2

・当社の(11月決算)の大株主が平成22年6月10日に死亡した。当社の1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)の計算において、当社所有の土地に対して課される平成22年分の固定資産税・都市計画税はどのように取り扱われるのか。

 固定資産税・都市計画税・・・・平成22年4月10日に納税通知書を受領
(納付すべき税額は500万円で課税時期現在では未払い)

・上記の場合に、1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)を

@課税時期における資産、及び負債の金額を基に計算(課税時期における
「仮決算」を実施)した場合と

A課税上の弊害がないものとして
「直前期末」平成21年11月期における資産、及び負債の金額を基に計算した場合とで異なる結果となるのか。

解            説



平成18年12月22日付け「相続税及び贈与税における取引相場のない株式等の評価明細の様式及び記載方法等について」の個別通達の改正(平18課評2−31改正)により、平成19年1月1日から、上記@とAにおいて差異が生ずることとなった。


・平成19年1月1日以前においては、1株当たりの純資産価額を計算する場合における負債の部の計上に関して、帳簿に負債としての記載がない
「簿外負債」でも、一定のものは負債として「相続税評価額蘭」及び「帳簿価額欄」のいずれにも記載することが容認されていた。


・平成19年1月1日以後においては、
「簿外負債」の負債の部への計上は認められなくなった。


@の仮決算をした場合には、固定資産税等の債務確定日が4月10、課税時期の6月10日において、まだ未払いの時には、未払金として負債の部に計上することになり、また例え既に支払っている時にはその分預貯金の減少という形で共に
「平成22年の固定資産税等が株価に反映される」こととなる。

A仮決算をせずに直前期末の資産及び負債の金額を基に計算した場合には、決算期が前年の11月なので、平成22年の固定資産税等は未払いとして帳簿価額に計上されていないため、
「平成22年の固定資産税は株価には反映されない」こととなる。