遺言の方法と種類



  民法改正と遺言の方法


平成31年1月13日施行された民法改正により、目録を添付する場合には、パソコン作成のものを認めることとした。

民法968条2項

・前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産
(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

@添付する目録は遺言者の自書ではなく、「パソコンで打ち出したモノ」でもokになる。   

Aパソコンで作成しなくても、
「登記事項証明」「通帳のコピー」でもokになる。


・民法改正により、遺言書作成が簡単になった。

・例えば、目録記載@の資産は妻に相続させる。目録記載Aの資産は長男に相続させる。



  遺言の方法と種類

民法967条

・遺言は普通の場合、@自筆証書遺言 A公正証書遺言 B秘密証書遺言のいずれかの方式によらなければならず、これらの方式は、いずれも
「書面による方式」であり、書面に記載したうえで、それぞれ定められた者の署名、押印を要するとされている。
書面によらない例外の場合

「口頭による遺言」も特別の方式として認められているが、遺言者が死亡の危急に迫っている場合の遺言であるとか、船舶遭難者の遺言など特定の場合に限られている。(民法976、979条)



遺言方式


遺言能力

・遺言する人には、遺言の内容を理解し、遺言の結果どうなるかを認識していることが求められるので、法律では、遺言することができる年齢を
「満15歳以上」としている。

・行為能力がなくても
(被成年後見人など)、一時的にでも意思能力があれば遺言は可能である。

民法962条 遺言能力

・第五条
(未成年者)、第九条(被成年後見人)、第十三条(保佐人)、第十七条(補助人)の規定は、遺言については、適用しない。

 
民法973条 成年被後見人の遺言

・ 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、
「医師二人以上の立会い」がなければならない。

2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により
「事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記」して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。



  自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
概 要 ・自分一人だけで作れる最も簡単な遺言書

・遺言者がその全文・日時・氏名を自署し、押印をする。


・加除、その他の変更は遺言者がその箇所を指示し、変更した旨を付記する。

・ワ−プロやパソコンにより作成されたものは
「無効」である。

・一般的には、
「○○の財産を相続人○○に相続させる」とか「××の財産を相続人××に遺贈する。」いう内容のものが多い。



・高齢で、すべて自筆で書くことが困難な場合が多い。

・そのような場合には
、「死因贈与」を選択するのがよい。

・死因贈与であれば、
「ワ−プロ」や「パソコン」により作成されたものでも有効である。

・相続人が
「ワ−プロ」や「パソコン」により作成し、それに押印すれば有効である。


・証人2人以上の立会いのもと、公証人が遺言者から口述内容を筆記し作ってもらい、公正証書にする遺言


・公正証書で作成されていても、遺言作成時に本人が
「認知症」であったことが証明された場合には、無効となる。


・内容を誰にも知られたくない場合の遺言

・遺言者が署名・押印した遺言書を封筒に入れ、同印で封印し、公証人1人・証人2人以上の前に提出し、自己の遺言であることを証明してもらう。



・封書の中の文書は
「ワ−プロ」や「パソコン」により作成されたものでも差し支えないが、「署名は自筆」でなければならない。

・自分で遺言書を創り、
「手続き的に一旦は公証人に見せました」、というだけ証明であり、遺言の中身について公証人は責任を負わない。

・従って、無効になる可能性もあり、3つの遺言書の中で一番中途半端なものである。



作成場所
どこでもよい 公証役場 公証役場
証人 不要 二人以上
公証人1人および証人2人以上
作成者 本人 公証人(口述を筆記する)
誰でもいいが、自筆が望ましい
署名捺印 本人 本人、証人および公証人
本人(封書に本人、証人および公証人が署名捺印)
日 付 年月日を書く 公証人が作成年月日
日付の記載は無くても可
公証人が証書提出日付を封書に書く
保管方法
遺言者本人が保管する。

保管されることはないので紛失隠匿のおそれがある。


遺言者本人に正本と謄本が交付され、
公証人役場に原本が保管される。

遺言者本人が保管する。

保管されることはないので紛失隠匿のおそれがある。

家庭裁判所による検認

必要 不要 必要

「遺言書の検認」とは、「遺言書の形状」、「加除訂正の状態」、「日付」、「署名」など遺言書の内容を確認し、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。

検認は、「遺言が遺言者の真意であるかどうか」や、「遺言が有効であるかどうか」を審査する手続ではありません。        

・また、遺言書の検認は、遺言書の存在を相続人ほかの
「利害関係人に知らさせる目的」もあります。

費 用 かからない 公証人の手数料
証人への謝礼

公証人の手数料
証人への謝礼

・公正証書に較べると費用は安い。

メリット
デメリット
・一人で簡単にできる。

・遺言の存在及びその内容を秘密にできる。

・遺言書の紛失、相続人・他人による偽造・変造・隠匿の危険性有

・方式不備、内容不備により法的に 無効になるおそれがある
・公証人関与で方式不備にならない。

・原本が公証人役場で保存されるので、変造・滅失のおそれがない。

・手数料が必要
・手続きが面倒
・証人から秘密が漏れる危険性有。
・遺言の内容を秘密にでき、偽造・変造などが防げる。

・方式不備、内容不備の可能性有。

・作成に手間と費用を要する。
・原本が公証役場に保管されることはないので紛失隠匿のおそれがある。


特別方式の遺言
一般危急時遺言 ・病気、ケガなどによって死亡の危急に迫った者が遺言する場合
難船危急時遺言 ・遭難した船舶の中で死亡の危急に迫った者が遺言する場合
一般隔絶地遺言 ・伝染病で隔離された者が遺言をする場合
船舶隔絶地遺言 ・在船者や船舶遭難時の船舶中にいる者が遺言する場合



  「補充遺言」とは



・遺言において「○×の土地は長男に相続させる。しかし、私が死んだときに、
長男がすでに死亡していた時は、長男の息子の△に相続させる。」という書き方、

・又は「○×の土地は長男に相続させる。しかし、
長男が当該遺贈を放棄したときには、当該土地は、長女に相続させる。」という書き方、

「遺言執行人の指定」においても同様に、補充する内容の遺言を作成できる。


「後継ぎ遺贈」は無効

・例えば、妻にいっぺん財産が遺贈されて相続は終わる。妻の後に誰が相続するかを指定する「後継ぎ遺贈」は、遺言では無効とされる。

「個人信託」を活用し、委託者の信託目的に応じて「長期間にわたり、いつ、誰に、どのくらいの財産を分配するかについて決めて置ける。」のが遺言と異なる。

・受益者を複数設定したり、法人などを受益者にすることも可能なので、例えば「第1受益者を妻、第2受益者を子供とし、子供の死後に残った財産があれば母校に寄付する。」というような信託契約もできる。




  自筆証書遺言の作り方と注意点


自筆証書遺言の作り方

(1)遺言する内容を事前によく考え、整理しておく


 ・法定相続人を調べる。

 ・財産の内容を確認する。

 ・「誰に」「どの財産を」「どれだけ」相続又は遺贈するかを予め整理します。

 ・遺言書を下書きする。

 

(2)全文、自筆で書く
 
 
・ボールペン、万年筆、毛筆で、便箋、原稿用紙などにわかりやすい文章で書きます。 鉛筆は変造を防ぐという意味で不適当です。毛筆にする場合は、字がつぶれないように 細めの筆を選びましょう。

・自筆証書遺言の場合、必ず遺言書は全文
(署名、日付、本文とも)自筆でなければなりません。ワープロ打ちはもちろん、代筆もダメです。他人に手を添えてもらって書いた場合は、第三者の意思が働いたとして遺言が無効になる可能性があります。


・但し、相続財産の全部または一部の目録を添付する場合

@
「財産目録」については自書を要しない(パソコン等で作成可)

Aただし、自書によらない
各目録の1枚1枚に署名し押印する必要がある。

B各目録の記載がその両面にある場合には、その両面に署名し押印する必要がある。


(3)日付を正確に書く
 
 
・日付は西暦でも元号でもかまいませんが、特定できる日でなければなりません。 平成16年6月吉日というような日付が特定しない書き方は遺言それ自体無効となりますので、必ず平成16年6月30日と書いてください。

・日付は、遺言書が2つ存在した時に、どちらが有効かを決める上で大きな意味を持ちます。日付のない遺言は無効になりますので、注意して下さい。  


(4)姓名を自署する
 
 
・後日のトラブルとならないよう、戸籍どおりに姓名を自署してください。  


(5)押印をする

 
・必ず氏名の後に押印をします。この印は認印でも有効ですが、トラブル防止の意味からも実印のほうが安心です。  


(6)遺言書を封印する

 
・一般的に遺言書を書いたら封筒に入れてのり付けをします。そして封の部分に遺言書に押した印鑑を押します。さらに表側に「遺言書」とタイトルをつけ、裏側には「開封厳禁・本遺言書は私が死んだら、すみやかに家庭裁判所に提出して下さい」などと書いて、日付と署名押印をしておくようにします。



(7)遺言書を保管する

 
・仏壇やタンス、書斎の机の引き出しなどが保管場所として考えられますが、信頼できる友人や顧問税理士などに預けておくのも一法です。また、遺言書を作成したことと保管場所については、最低限、信頼できる配偶者又は子には伝えておくようにします。
  



その他自筆証書遺言作成上の注意点


(1)言書が複数枚になったら契印する

 
・遺言書が2枚以上になる場合は、1つの文書であることを証明するために、用紙と用紙を合わせて、その境目に印鑑を押します。特に契印がなくても遺言書は有効ですが、変造の危険を考えると契印があったほうがベターです。



(2)印鑑は全部実印を押す
 

・法律的には印鑑は認印や拇印でもかまいませんが、なるべく実印を使ったほうがトラブルが避けられます。遺言書の末尾や訂正印、封筒などに押す印鑑はすべて同じものを使うようにします。
 

(3)自筆証書遺言書加除訂正の注意点
 

・訂正個所に二本線を引き、訂正前の字が読めるようにして、その上に訂正する字を書きます。

・訂正個所に押印をする。この印は自署のあとに押印した印と同じものでなければなりません。

・遺言の末尾か変更場所の欄外に「壱拾行目五字目のあと参字加入」などと変更した場所を記し、その記載のあとに氏名を自署します。




  公正証書遺言の作り方と注意点


公正証書遺言の作り方

(1)遺言する内容を事前によく考え、整理しておく


 ・法定相続人を調べる。

 ・財産の内容を確認する。

 ・「誰に」「どの財産を」「どれだけ」相続又は遺贈するかを予め整理します。

 

(2)依頼する公証人役場を決める
 
 
・全国のどの公証人にでも依頼でき、料金も全国一律ですが、お近くの公証人役場を選べば良いでしょう。

 

(3)証人を決める
 
 
・証人は2人以上。ただし、推定相続人、未成年者、被後見人、被保佐人、公証人の配偶者・四親等内の親族、書記及び雇人などは証人になれません。



(4)事前に公証人役場で打ち合わせをする
 
 
・事前に資料をもって公証人役場を尋ね、遺言内容を打ち合わせしておくとスムーズにすすみます。正式な日時はそのときに決めるようにします。 なお、公証人役場まで出向けない場合は、公証人に出張を依頼することもできます。



(5)必要書類を用意する

 
・正確な証書を作成するため、遺言者の印鑑証明書・戸籍謄本、受遺者の戸籍謄本・住民票(親族以外の人に遺贈する場合)・法人の登記簿謄本(会社等の法人に遺贈する場合)、財産の明細一覧表及び財産特定のための不動産の登記簿謄本・固定資産評価証明書、預金通帳のコピー、証人の住民票などを準備します。



公証人役場の遺言書検索システム

・平成元年(1989年)以降に作成された公正証書遺言は、遺言者のデ−タ
(氏名、生年月日、公正証書を作成した公証人名、作成年月日など。ただし、遺言内容は含まない)をコンピュ−タで管理し、最寄りの公証役場で検索が検索可能となった。



  秘密証書遺言の作り方と注意点



秘密証書の作り方

(1)遺言する内容を事前によく考え、整理しておく


 ・法定相続人を調べる。

 ・財産の内容を確認する。

 ・「誰に」「どの財産を」「どれだけ」相続又は遺贈するかを予め整理します。

 

(2)遺言内容を記載した証書を作成する
 
 
・自筆でも、他人の代筆でも、タイプライター・ワープロ・点字機などで印刷されたものでも構いません。日付の記載は必ずしも必要ありませんが、入れておいた方がよいでしょう。内容の加除訂正は、自筆証書遺言の場合と同じです。

 

(3)遺言者が、遺言書に署名し、印を押す
 
 
・署名は必ずしなければなりません。印は実印でも認印でもでもかまいませんが実印の方がよいでしょう。


(4)遺言者が、その遺言証書を封じ、遺言証書に用いた印で封印する
 
 
・封印は遺言に使用した印と必ず同じ印を使います。使用する封筒は特別なものではなく、市販されている封筒でかまいません。



(5)遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨ならびにその筆者の氏名および住所を申述する。

(6)公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人ともにこれに署名し、印を押す





  共同遺言の禁止- 民法975条


相談事案 >

・ある夫婦から遺言作成の依頼があり、その相談内容は「私たちの財産は、2分の1ずつの共有の自宅しかないので、夫婦で1通の遺言を作成しようと思っている。」

・「2人のうち、どちらか一方が死亡した場合には、他方の配偶者に自宅を相続させる。2人とも死亡した場合は長男に相続させる。」

・民法975条では、
「共同遺言を認めていない」ので、上記のような相談を受けても作成できない。