相続時精算課税制度             



相続税法21条の9〜18

・相続時精算課税制度とは、平成15年から導入された制度で相続税と贈与税を一体化し相 続をめぐる税負担を合理化しようとするものだと言われていますが、資産をお持ちの年配の親 から資金需要の旺盛な子供に 「贈与の特別の非課税枠」を設けて資金等を移すことにより、資金の流れの活性化を促し経済の発展につなげようとする国の意図も感じられます。



  適用対象者

適用対象者

・贈与者は、満60歳以上の親。

・受贈者は、満18歳
(令和4年4月1日以降)以上の子である推定相続人(代襲相続人を含む。)。人数の制限はない。


  適用手続

適用手続

・贈与を 受けた年の翌年3月15日までに税務署へ本制度を選択する旨を届出。

・本制度の選択を一度届け出れば、以後同じ贈与者からの贈与について相続時まで本制度の適用 が継続。

 @受贈者である兄弟姉妹が別々に、

 A贈与者である父、母ごとに、 選択可能。


  適用対象となる贈与財産等

・贈与財産の種類、贈与金額、贈与回数に制限はない。


  税額の計算等

贈 与 時

・制度の対象となる親からの贈与財産について、他の贈与財産と区別して、贈与時に贈与税( 軽減)を納税。

・申告を前提に、2,500万円の非課税枠
(限度額まで複数回使用可)、これを超える部分については「税率20%」で課税。

「住宅取得等資金」の贈与の場合については、贈与者年齢要件(65歳以上)を撤廃するとともに、 非課税枠を拡大(1,000万円の上乗せて3,500万円まで非課税)。 (適用期間:平成15年〜平成19年)

「特定同族株式等」の贈与の場合については、贈与者年齢要件(65歳以上)を60歳に引き下げる とともに、 非課税枠を拡大(500万円の上乗せて3,000万円まで非課税)。(適用期間:平成19年〜平成21年)

相 続 時

・選択した子は、 制度の対象となる親からの相続時に、それまでの贈与財産と相続財産とを合算して計算した相続税額(計算方法は従来と同じ) から、既に支払った贈与税相当額を控除。

・相続税額から控除しきれない贈与税相当額は還付。

@相続財産と合算する 贈与財産の価額は、贈与時の時価

A土地については、通常路線価で評価

B建物は、固定資産税評価額で評価


相続時精算課税の活用

・相続時精算課税は、贈与時の相続評価額が相続時の相続財産と合算されることになるので、贈与する土地や株式の相続評価額が
「将来に渡り増額することが見込まれる場合」には有効である。

・一方、予想に反して相続時に土地や株式の
「相続評価額が、贈与時よりも減額している場合」には、不利に働く。


特別控除枠2,500万円の活用

・特別控除枠2,500万円については、同一年中に使い切ることもできるし、何年かに分けて適用することもできる。(相続税法21の12)

・例えば、1年目に1,000万円、2年目に1,000万円、3年目に500万円を贈与することも可能である。

・贈与者が死亡した場合、相続財産に加算するのは、贈与時の価額である。(相続税法21の15、相続税基本通達21の15−2)


  提出書類

***税務署への提出書類***

  @贈与税の申告書(相続時精算課税の計算明細書)

  A相続時精算課税選択届出書

添付書類
 「贈与者である親の住民票」 「受贈者である子の戸籍謄本」 「戸籍の附表の写し」 


事   例

・相続時精算課税制度を適用する場合には、贈与の翌年の3月31日までに贈与税の申告書、及び相続時精算課税選択届出書を提出すべきところ、税理士Aは、相続時精算課税選択届出書の提出を失念した。

・その結果発生した過大納付相続税額等につき、税理士Aは損害賠償請求を受けた。




  暦年贈与との比較

暦年贈与 相続時精算課税贈与 
あげる人 年齢制限なし 60歳以上の親 
もらう人 年齢制限なし 18歳以上の推定相続人たる子(代襲相続人を含む)
対象財産 制限なし 制限なし 
税額計算の際に財産の額から控除される額 1年につき110万円 親1人、一生につき2,500万円
住宅取得資金の場合
床面積50u以上240u以下
1年につき110万円 親1人、一生につき3,500万円
税 率 110万円控除後の額に応じた税率 2,500万円を超えた額につき一律20%
計算期間 1年間 届出提出後、相続開始まで
申告しなければならない場合 基礎控除(110万円)を超える贈与 届出提出後の贈与について、贈与を受けた年ごとに申告が必要となる
相続税との関係 相続開始前3年以内の贈与財産を相続税計算時に加算する 相続財産と合算
選 択 不 要 父母・兄弟姉妹ごと
相続時の合算価額 贈与時の時価 贈与時の時価
相続時の還付 還付なし 納付超過分は還付あり
適 用 精算課税贈与を選択しなければ適用 一度選択したら、選択後すべての贈与に適用。撤回不可
相続税の節税効果 高い 低い
大型贈与 多年数にわたり、多人数であれば可能 一度に大型贈与が可能
その他 今後値上がりしそうな自社株式や不動産等に適用すれば、有効な相続対策となりうる

・間違え易い点は、18歳、60歳というのは、
「贈与した年の1月1日現在の年齢を指定」している。従って、年の途中で60歳になったとの理由で相続時精算課税の贈与を行っても、当該贈与した年の1月1日の時点では、60歳になっておらず、適用が認められない。



  相続財産に合算される贈与財産と相続税への影響

贈与時点 相続時点 相続税への影響
贈与財産評価 1,000 1,000 な  し
贈与財産評価 1,000 1,500
・合算される生前贈与財産1,000


・贈与時点の方が評価が低かったので、結果的には得することになる。

贈与財産評価 1,000 500
・合算される生前贈与財産1,000


・贈与時点の方が評価が高かったので、結果的には損することになる。



  平成25年税制改正

平成25年税制改正

・平成27年1月1日から、下記のように改正になる。

改正項目 改 正 前 改 正 後
贈与者の条件 65歳以上の親 60歳以上の直系尊属(父母・祖父母)
受贈者の条件 20歳以上の推定相続人たる子(代襲相続人を含む)
20歳以上の推定相続人である子・20歳以上の孫


・孫が精算課税の適用を受けた場合は、法定相続人ではないので、「遺贈により相続財産を取得」したこととなり、特定贈与者(祖父)が死亡した際には、「相続税は2割加算」になる。

・また、孫は法定相続人ではないため、特定贈与者
(祖父)が死亡した際には、相続財産はなく、相続税の納税負担だけを負うことになる。



  成人年齢の引き下げに伴う改正

・民法改正による成人年齢の引き下げに伴い2022年4月1日から受贈者の年齢が20歳から
「18歳」に変更された。


  相続時精算課税を検討した方がいいケ−ス

@贈与を受けたいが、贈与税を負担する余裕がない

A相続税はかからないので、早めに生前贈与したい

B使途を問わない資金をまとめて贈与したい

子供の住宅取得にできるだけ資金を提供したい場合

・相続時精算課税の非課税枠+住宅取得資金贈与の特例枠

 2,500万円  +  700万円
(平成29年度非課税枠)  = 3,200万円