特定遺贈と包括遺贈            



  特定遺贈と包括遺贈 民法第964条


・遺贈には、「特定遺贈」「包括遺贈」とがあり、受遺者を特定受遺者と包括受遺者に区分している。

・相続税法では、包括受遺者を相続人に含めて取り扱っており、
「相続人が不存在の場合」でも、包括受遺者がいれば、「相続人と同様」に取り扱われる。

・相続人に対する遺贈は
「特別受益」になります。


1.特定遺贈とは

・「土地はAに、建物はBに」というように、特定の財産を与えることを言い、3種類ある。

**特定遺贈の種類**
  特定物の遺贈 ・特定の不動産や動産を遺贈 
  不特定物の遺贈 ・種類と数量のみ指定する種類物の遺贈と金銭の遺贈
  特定物の選択的遺贈 ・200坪の土地のうち150坪を遺贈するようなケ−ス
・特定遺贈の場合には、「債務については」特に指定がない限り負担する義務がない。通常は、債務を負担させることはしない。

・特定遺贈部分については、相続が確定している部分なので、他の資産について未分割であったとしても、申告期限内に申告する必要がある。

・特定遺贈は、相続人に対してもすることができるが、この場合、その財産は遺産から除かれ、
「除いた遺産について遺産分割」することになる。そして、遺贈を受けた相続人は「特別受益者」になる。

・遺言者の死亡後は、いつでも遺贈を放棄することができる。
(民法986条)「特定遺贈の放棄」をするときは、相続放棄ではなく、遺贈義務者(相続人をさす)または遺言執行者に対する意思表示をする。

・そして、遺贈を放棄したときの効力は、遺言者が死亡した時に遡るので、遺贈義務者、その他の利害関係人に、
「催告の権利」を与えている。(民法987条)


遺贈義務者とは

・遺贈に伴う手続き及び目的物の引渡しなどを実行すべき義務を負う者を「遺贈義務者」といいます。遺贈義務者となるのは
「相続人(法定相続人)」です。

・遺贈の対象に不動産が含まれているときの
「遺贈による登記」は、登記権利者である受遺者と登記義務者である相続人全員との共同申請により行われます。


・その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に「遺贈の承認」又は「放棄」をすべき旨の催告をすること ... 催告権者は、遺贈義務者、相続債権者、 相続人の債権者、相続財産管理人など遺産について法律上の利害関係を有する者です 。

・「遺贈義務者」とは、遺贈を履行する義務は、原則として
「相続人」が負う(第896条)。「包括受遺者」も遺贈を履行する義務を負う(990条・896条)。相続人であることが明らかでない場合には「相続財産の管理人」が(957条1項)、遺言執行者がいるときはその者が遺贈を履行する義務を負う(1012条1項)。


・「特定遺贈」については、受遺者は「遺贈を放棄することができる。」そして、遺贈の放棄があった場合には、「未分割財産」となるため遺産分割の対象財産となり、受遺者も参加して分割協議することになる。

・「受遺者」は、遺贈を放棄しても、相続を放棄したことにはならないので、
「相続人として遺産分割協議に参加」できる。

・一度適正に行われた
「特定遺贈の承認、又は放棄の意思表示」は、これを撤回することはできない。しかし、「詐欺」、「脅迫」、「能力制限」に基づいてなされたものは取消可能である。


遺贈の放棄

・「遺贈の放棄」については、その期限に制限は無くいつでも放棄することができるが、「相続の安定性」から、遺贈義務者(利害関係人)からの特定受遺者に対する催告権が付与されている。

・催告に対して回答が無い場合には、
「遺贈を承認したもの」とみなされる。

「特定遺贈の放棄」は、遺言義務者(又は遺言執行者)に対する意思表示で足り、家庭裁判所での申述を必要としない。

・特定遺贈の場合は、
「プラス財産のみ取得します」ので、遺贈の承認も放棄も時間・方法に制限はありませんので、いつでもできます。遺贈義務者に対して、放棄の意思表示をしただけで、遺言者の死亡時にさかのぼって遺贈の効力が失われます。

・貸し付けていた金銭の返済を免除する旨の
「債務免除」の内容の遺言は、債務者の同意を必要としない「単独行為」と認められるので、当該遺贈を放棄することはできない。

特定遺贈と相続放棄

・特定遺贈の受遺者が相続人である場合に、相続放棄をすると、
「相続による相続債務の承継を免れる」ことができた上で、「特定遺贈による遺産を取得」することができる。

・特定受遺者が丸儲けするのを防ぐため、調整が行われ優先順位により弁済が行われる。生命保険金は債権者による影響を受けない。

第1順位
.不動産に抵当権を設定している抵当権者や質権者

第2順位. 一般の債権者

第3順位.特定遺贈された受遺者

しかし「相続させる」旨の遺言の場合には、相続放棄をすると、相続債務を免れると同時に、相続による財産を得ることもできなくなる。


2.包括遺贈とは

・「包括遺贈」とは、遺産の「全部」または「その分数的割合」を指定するにとどまり、 「目的物を特定しないでする遺贈」のことをいい、債務をも含みます。

**包括遺贈の種類**
  単独包括遺贈
「遺産の全部を愛人に」というような、遺産の全部を1人に遺贈する方法
  割合的包括遺贈
・「遺産の3分の1を愛人に」という、遺産の全部または一部を一定の割合で遺贈する方法

・包括遺贈とは、「相続人以外への遺贈」であり、包括受遺者は、相続人と同等の権利義務を有しているため(民法990条)「遺産分割協議に参加」でき、所得税法でも、包括受遺者を相続人に含めて扱っている。(所得税法2条2項)

・「愛人」
等も遺産分割協議に参加することなるため、混乱が予想される。


・包括受遺者は次の点で相続人と異なる。

@遺留分権がない。包括受遺者は、 相続人と異なり遺留分を有しません。遺留分は、相続人固有の権利と解釈されているからです。

A代襲相続権はない。包括受遺者については、相続人と異なり代襲相続は発生しません。 遺言の効力発生時に受遺者が存在しなければ、遺贈に関する遺言条項は失効します。

B共同相続人が相続を放棄したり、他の包括受遺者が遺贈を放棄したときに、相続分が増加するのは相続人だけで、包括受遺者の持分は増加しない。

C包括受遺者の持分については、登記が第3者に対する対抗要件です。

D
「法人」も包括受遺者になれる。(宗教法人・社会福祉法人等の公益法人に遺贈する場合が多い)

E保険金受取人として 「相続人」 という指定がなされている場合でも、 包括受遺者は、 この「相続人」 には含まれません



・債務についての取り扱いも、
「特定遺贈」とは異なり、受遺者は、「債務について」も指示された割合だけ負担する義務がある。


・法定相続人でない者への包括遺贈の場合の場合、遺産分割協議に受遺者も加わることになり、そのため、他の相続人から反感を招くことも往々にしてありますので、「特定遺贈」にしておいた方がもめないといえます。


包括遺贈の放棄

「包括遺贈を放棄する場合」は、相続人と同じく、自分に遺贈があることを知ったときから「3カ月以内に、家庭裁判所」「放棄の申述」をしなければならず、この手続きをしないと承認したものとみなされる。

・つまり、「相続財産の3分の1を遺贈する」ような遺言書があった場合には、負債も遺贈により取得することとなるので、それを避けるためには、
「3カ月以内に、家庭裁判所」に放棄の申述をしなければならず、この手続きをしないと承認したものとみなされる。



  「補充遺言」とは


・遺言において「○×の土地は長男に相続させる。しかし、私が死んだときに、
「長男がすでに死亡していた時」は、長男の息子の△に相続させる。」という書き方、

・又は「○×の土地は長男に相続させる。しかし、
「長男が当該遺贈を放棄したとき」には、当該土地は、長女に相続させる。」という書き方、


・「遺言執行人の指定」においても同様に、補充する内容の遺言を作成できる。