相続税の納税義務者の区分と課税対象財産
相続開始の原因
1.死亡・・・・・・・・・・・・・・・民法882条
2.失踪宣告・・・・・・・・・・・民法31条
相続税の納税義務者の区分と課税対象財産
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国内
財産 |
国外
財産
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相続時
精算課税
適用財産
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無制限納税義務者 |
・相続時に日本国内に住所を有する者
相続税法1の3一
・相続税法1条の3では、相続又は遺贈(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。)により財産を取得した次に掲げる者を納税義務者としているが、
・上記の「贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与」とは、「死因贈与」を指している。
・「死因贈与」は、相手方が存在する贈与契約なので、「文書にした場合」には自由に撤回できない。
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○ |
○ |
○ |
・相続時に日本国外に住所を有する者で、「本人又は被相続人が相続開始前5年以内」に日本国内に住所を有する場合
相続税法1の3二 |
○ |
○ |
○ |
制限納税義務者
・相続時に国外に住所を有する者 相続税法1の3三
(上記非居住無制限納税義務者を除く) |
○ |
× |
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特定納税義務者
・相続時精算課税制度適用財産を取得した者 相続税法1の3四
(上記の無制限及び制限納税義務者を除く)
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− |
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無制限納税義務者
・無制限納税義務者は、相続や遺贈により取得した財産の所在地がどこにあるのかにかかわらず、取得財産の全部に対して相続税がかかる。
・無制限納税義務者は、「居住無制限納税義務者」と「非居住無制限納税義務者」の2つに区分される。
・相続、又は遺贈により財産を取得した個人で、その財産を取得したときに「日本国内に住所を有していた人」が該当する。
・被相続人の住所が日本国内にあるかどうかは問わない。
・平成12年3月31日以前に相続、又は遺贈により日本国内にある財産を取得した者が、その財産を取得した時に日本国内に住所を有しない者である場合には、相続した財産のうち「日本国内あるもののみが課税財産」となり、日本国外にある財産を相続しても相続税の課税対象とはならなかった。
・「平成12年4月1日以後」に相続、又は遺贈により日本国外にある財産を取得したときにおいて、次の@とAの2つのいずれかの条件を満たす場合には、相続税の納税義務を負うこととなった。
@海外居住の相続人が、国外財産を取得した場合において、被相続人又は相続人が「日本国籍を有する個人」であること。
A海外居住の相続人または被相続人が、「相続開始前5年以内のいずれかの時に、日本国内に住所を有したことがある」場合に限る。
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制限納税義務者
・相続や遺贈により日本国内にある財産をもらった人で、日本国内に住所がない人。(非居住無制限税義務者を除く)
・制限納税義務者については、もらった財産のうち、「日本国内にある財産にだけ相続税」がかかります。
制限納税義務者の控除する債務の範囲<
・制限納税義務者の控除する債務の範囲は、課税される日本に所在する財産に係る債務のみであり、外国財産から国内財産に係る債務は控除できない。(相続税法13条A)
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※「住所」とは、各人の生活の本拠をいい、「生活の本拠」であるか否かは、客観的事実によって判定する。
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特定納税義務者
・被相続人からの贈与について、「相続時精算課税」を適用するとして、所轄税務署長に「相続時選択課税届出書」を提出した「相続時精算課税適用者」は、相続税を納税する義務がある。
・相続人Aの相続人(日本国籍を有する。)は、相続開始の時において、被相続人及び相続人ともに日本国外に住所(生活の本拠地)を有していたことから、日本国外にある被相続人の預金や有価証券については申告不要と考え、日本国内にある財産のみを課税対象とした。
被相続人は、相続開始の3年前に日本を離れ国外に住所(生活の本拠地)を有していた。
相続人は、相続開始の10年前に日本を離れ国外に住所(生活の本拠地)を有していた。
解 説
・被相続人が相続開始前5年以内に日本国内に住所を有していたことから、相続人は「非居住無制限納税義務者」に該当するため、日本国外にある財産が申告漏れとなる。
平成25年税制改正-海外居住の相続人の課税対象拡大
・平成25年4月1日から改正になり、日本国内に住所を有しない個人で「日本国籍を有しない者」が、「日本国内に住所を有する者から」相続若しくは遺贈又は贈与により取得した国外財産が、相続税又は贈与税の課税対象に加わる。
・改正前は、「日本国籍を有する者」が、相続若しくは遺贈により・・・だったが、事業後継者が結婚し配偶者が妊娠した時点で、アメリカ等に行き出産、そこで出生届けを出すと、生まれた子供はアメリカ国籍となり、課税を免れることができる。そこで、「日本国籍」を要件からはずした。
・中央出版がこの手法を用い、課税当局と訴訟中である。中央出版の会長が、贈与税を課されないものと判断し、米国に居住する
孫に米国債を贈与した。しかし、国税当局は孫が国内に住所を有していたと認定
して追徴処分(約5億円)をし、これに対し孫は異議を申し立てた。孫の父親の
勤務する米国法人(中央出版の子会社)は休眠状態で、父親の米国での収入はほ
とんどなく、父親は日米を行き来していたとのことである。
・これは、日本の親が、国外居住の外国籍の子に国外財産を贈与や相続した場合、現行法では、贈与税の納税義務なしとされるところ、アメリカで生まれて米国籍のみをもつ孫を受益者として、5億に近い生命保険への投資する信託契約を作成したところ、国税から贈与税の納税義務ありとされ、結果、「平成23年3月24日名古屋地裁で納税者勝訴」となった、いわゆる「中央出版事件」です。この裁判は、国税が控訴して係争中です。
・争いの1つは、「日本国籍」を有するか否か、もう1つは、信託財産が「国外財産」か否か
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・つまり、平成25年4月1日からは、被相続人・贈与者が日本国内に居住していれば、相続・贈与した相手が「相手が外国国籍」であっても、また相続・贈与する財産が、「日本国内財産」であろうと「海外財産」であろうと、相続税・贈与税の課税対象になる。
・外国国籍の人が、日本の居住者から贈与を受けた場合でも、当該外国国籍の人は「無制限納税義務者」になり、納税義務を負うこととなるが、これを納税しない場合には、連帯納付義務のある日本国籍の贈与者から税額を徴収することになる。
・納税地を選択しない場合には、「麹町税務署」に申告納税することになる。
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平成29年税制改正-非居住者への贈与の見直し
1.国外に居住する日本人の国外財産に対する相続税等の納税義務を拡大し、租税回避の抑制をするため、国外に居住する日本人の「国内に住所を有していない期間」の基準を「平成29年4月1日以後」、現行の「5年以内」から「10年以内」に変更されることとなった。
・平成12年度に税制改正が行われ、「5年基準」が設けられたが、この5年をみそぎと称して、下記のような租税回避行為が行われているため、改正により10年した。
@親と子の双方が法施行地外(日本国外)に住所を移転する。
A法施行地内(日本国内)にある財産を法施行地外(日本国外)に移す。
B法施行地外へ「住所移転後5年を経過後」に、親から子へ「法施行地外にある財産」を贈与する。
C贈与後に、法施行地に住所を移転する。
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租税回避の方法
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2.高度外国人材等の受入れの促進から、駐在など滞在が一時的(国内に住所を有している期間が相続開始15年以内で合計10年以下)な外国人同士の相続等の場合は、「平成29年4月1日以後」、国内財産のみ課税となり、国外財産(本国の自宅等)に日本の相続税が課税されないこととなる。